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述懐
 平成二十四年(2012)十二月


   となん一つ手紙のはしに雪のこと      西山宗因

 生きているだから逃げては卑怯とぞ
     幸福を追わぬも卑怯のひとつ    大島史洋

 今はには何をか言はん世の常に
     いひし言葉ぞ我心なる        伴信友

       十二月二十一日七十七歳
 喜壽 七七は始終苦なりとそれもよし
      苦あれば楽のよろこびが松     遠
  

 
      北朝鮮またもミサイル実験と
 なにが不沈空母なものか原発を
     三基もねらい撃てば日本列島は地獄ぞ  湖






         東京工業大学・工学部 教授室で  秦 恒平 59歳  1995.4.8 




* 平成二十四年(二〇一二)十二月一日 土

* 血圧123-61(64) 血糖値100  体重64.9.kg  朝、カステラ一切 トースト三分一 ミルク珈琲 ヤクルト 朝の服薬 歯科へ 一路帰宅 午、饂飩 出汁に卵溶いて 酒粕 午の服薬 休息 午後の仕事  晩は、白粥二膳 好きな生の酒粕「白鶴」を美味く食べた。 晩の服薬後 夜仕事十時半まで。 終日涙目と洟水に悩まされ、目も霞んでいる。 休む。 

* 写真をホームページへ入れる方法が、機械的に変更になったのか、わたし自身の理解不足か、今までのように新しい写真を入れられなくなって三ヶ月も経 つ。しょうがない、エイとばかり同じホームページの中の遠い昔の自影を引きずり出した。平成七年、退役にもう一年にちょうどもう一年の春、東工大には桜が 満開の頃だ、この前年には、つか・こうへいに師事していた秦建日子が劇作家としてデビュウしていた。
 教授室なのに本棚に本が無い。読みもしない本を研究費と称して浪費する気はなかった、読むべき本は家にある、学生に伝えたいものごとは頭にある。からの 本棚はそれなりに講義用の物置としてちゃんと役に立っていた。趙即之の「方丈」二字が好きで、ひょいと置いてあった。お喋りに寄ってくる学生達が男女とも いっぱいいた。
 なにより元気そうに見える。
 いまのわたしは、最重量時からは23キロも痩せ、親しい知人でも見誤り一瞬言葉を喪うほど見る影無いが、それでも、63キロ半ほどあるし、頭の回転は変わっていない、気で、いる。

* 転送に成功するかしないか、非常に珍しいビュッフェの歌舞伎繪が、この画面では挿入出来ている。うまく転送し得ていて欲しいが。

* 「述懐」の最初、宗因の句は、あまり気づかれていないが、わたしの見るところ下敷きは徒然草であろう。雪の日に兼好は親しい女に手紙でものを頼んだ が、折しも降ったまたは積んだ雪に一言も触れなかったので、相手の女から一言も雪に触れてものを言わない野暮天の頼みなどきけるものですかとヤラレてし まった。頼みは聞いてくれたと想う。わたしの好きな一段で、兼好も懐かしそうに書いている。女はもう亡くなったかのようにも兼好は書いているが、これは分 からない。宗因句の手紙は女からの返事、そして脱帽した兼好の述懐に擬した句作り。「となん一つ」とは女の手紙のはしに「こう、一つ書き添えてあったな あ」という兼好の嘆賞。よほど女に惚れていたように感じる。

* 歯科へ。そして一路帰宅。昼食後、ちょっとしたテレビドラマに、機械前への足を止められていた。比較的好きな男優の主演作で、根の深く遠い警察犯罪を 追究していた。こういう刑事の奮闘には、新聞記者のような「書き手」の協力しているパタンが「相棒」などにも見えている。たしかに刑事だけで組織の伏魔殿 を掃除することは難しいことだろう。海外映画では「放送・放映」を頼む作を幾つか観てきた気がする。

* 昨日の11党首討論が大きく採り上げられている。但しあれは論議を尽くした極みではなく、大勢がほぼ平等に、一分、一分半、三十秒ずつ話したのであ り、それ以上のマスコミや識者らの「ねだり」はムリという物、概略の概略が聴き取れたのである、それでも役には立った。自民党は危険きわまりなく、代表石 原と代表代行橋下との公約・政策の大きな齟齬を石原自身が暴露した維新の会はもはや公党として信頼がおけず、国民新党の政見もわたしは拒絶する。民主党の それは、選挙用に辻褄を合わせてきたものと見抜かねばならないし、公明党の自民党への擦り寄り政権への眷恋姿勢は、このままでは頂けない。みんなの党も、 いますこし事態を見極めた大胆な踏み出しがないと小粒に縮みそう。
 わたしは「日本未来の党」の「反原発」へ時宜を得た大胆な登場と政見とを躊躇なく支持する。「小沢一郎がそんなに怖いのか、使いこなしてみせる、苦いけ れど良薬として用いたい」という嘉田由紀子党首の啖呵に、思いがけない気鉾がひらめき、どうなるにせよ面白かった。解党しても此処へ結集した小沢らの機敏 にも、この際、声援を惜しまない。「対立軸 交錯」を衝いて縦横の術策も必要なときだ。小沢の手腕にも期待している。
 自民党と維新の会の野合して行く経路はもう見え見え。彼らの「原発推進」も「憲法改悪」も、わたしはけっして許さない。官邸デモなど国民の意思表示デモ も根気よく続いて欲しい。この際は、曖昧模糊として党利党略と化して行くに相違ない、官都合の経済より、はっきりと「反原発争点化」を怖れず突出させた い。

* 石原慎太郎に判断混雑の「暴走老人臭」が臭ってきている。そんな石原継承という^P候補の受動的な姿勢は、なにが「決断力」かと都民は離れて行くので はないか。受動の継承とは、つまりはより小粒な低下になって行くのは必然。^P候補は、自民党からも石原維新の会からも真に「自由な決断力」を掣肘されて は立候補の意味が無い。「副知事」はけっしてそのまま「知事」ではないことを、聡明に悟らねば。
 彼・石原は、昨日、何と言ったか。「経済をシミュレーションした先に原発を考えなかったら私はやっていられないし、代表を辞める」と。この言説はこうも 連鎖して行くのだ。「(原発ゼロによって、石原氏の)これまでのスタンスだった核(兵器の開発)のオプション(選選択肢)を失ってもいいのか」という記者 側からの質問に、石原慎太郎ははっきりと「それは困る」と明言したのである。
 要するに石原慎太郎維新の会代表には、原発を存続し基盤にして「核兵器開発」が明確に予定されているのだ。その「核兵器」を彼らは、何に、何処に「敵」 を見つけて使用したいのか。まさに「核兵器」によりヒロシマとナガサキを不幸にして突きつけられた「日本人」である「あなた」「わたし」は、こんなとんで もない「暴走老人」の耄碌と彼に率いられた維新の会などに存在を許せるか。「わたし」は絶対に「否」と答えて戦いたい。

* 「脱原発」が「未来の党」を「伸ばす」と新聞は大きく報じている。「比例」投票よそうでは自民も民主もはっきり「減少」してきた。
 選挙後の「政権枠組み」に幻惑されず、今は一途に「自公民エゴイズム三党」および「核兵器開発」に目的をもった「維新の会」の極まりない危険を殺ぎ切るべく、、断乎「ノー」の一票、一票を山のように積み上げよう。

* 報じられ公開された「原発連鎖爆発」という大危害のまさにその際の福島東電の「無対策」「無能と軽薄」な責任感の感じ取れない混乱ふりは、どうだ。
 あの際の菅総理の、首都圏にも及びかねない事態を脳裏に、責任と恐怖。それと対比しても、東電がいかに無能力・無責任だったかに驚き・怒りを禁じがたい。一日も早く、改組ないし消滅をと切望する。
 菅総理の言語を絶した脆弱原発の爆発体験から学ぼうとせず、
 安倍自民は「軽々にゼロと言わぬ」と「核兵器開発」を下心に公言している。さらに「規制委員会」の安全基準を満たせば「原発新設」するとも公言したのである。その規制委員会が、いかに原発擁護体質の偏った委員会であるかを思い知れば、なにをか言わんや。
 野田民主はともあれ「原発ゼロは国民の覚悟」と認識を示している。
 嘉田未来は「卒原発へ、まず節約」と道筋を明瞭に示唆し「全員参加で国民の反原発の覚悟を活性化」しようとしている。
 どれを支持すればいいか、自ずと知れる。

* さらに、是非言いたいのは、なによりも「原発稼働全停止」という主張を喫緊の要件としてひろく認識していたいこと。「ゼロ」への道はここから始まるということ。
 また「廃炉」は、「稼働停止」の「卒原発」の更に奥の奥の苦労の多い、しかも実現は至上命令の別分野であり、当面こんどうしてはならないこと。
 しかし廃炉の為にも、現在の原発をしっかり停めるためにも、「トイレ(毒性の強い核廃棄物の最終処理場)のない原発」の現状へ視線をけっして逸らさないでいること。

* 途方も無い、けっして見逃せない自民党の腹の悪さを明かす読者のメールが入った。要点を抄して書き置きたい。

 ☆ 自民党の「改憲案詳細」を知り、のけぞりました。
 九条についてはわかっていましたが、内容はそれだけに止まりません。もしこの邪悪な憲法改悪が実現すれば、国民の息の根がとめられます。日本は民主主義国家ではなくなります。
 今回の選挙が、「日本最後の普通選挙」になるかもしれない、日本はファシズムの国になると在外邦人が話題にしていました。
 
 自民党の憲法改悪案は、「97条(基本的人権の保護)をフル削除」し、18条の「何人も、いかなる奴隷的拘束も受けない」を削除しました。心底恐怖します。基本的人権を保証されなくなった国民は悲惨を極めるでしょう。国民は奴隷です。
 
 「徴兵は憲法が禁止する奴隷的拘束にあたるかどうか」は長年の議論ですが、これを「削除」してしまうことで徴兵への最大のハードルを外したことになりま す。「拒否できない徴兵制」 これは日本を守るための闘いなのでしょうか。まずはアメリカの下請け軍隊としての派兵であり、日本の国益とは関係のない闘い に駆り出されるのです。そして、人員の不足が明らかな、収束は不可能とされている福島原発作業員として働かされ、被曝するのです。チェルノブイリのたった 一基の原発事故で死んだ兵士の数はおそらく十万人を超えています。福島の事故そのものは、チェルノブイリの何倍もの規模でした。
 さらに第21条については、「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」との現行規定に、「前項の規定にかかわらず、公益及 び公の秩序を害することを目的とした活動を行い、並びにそれを目的として結社をすることは、認められない」という条文を追加しています。共産党はまたも 「アカ」呼ばわりで非合法化されかねない。権力者が「公益及び公の秩序を害する」と一度判断したら、「表現の自由」は許されなくなってしまいます。脱原発 運動や反政府的運動をおさえこみ弾圧する「極右ファシズム」に他なりません。民主主義との決別です。
  「民衰える時は、国滅びる」というのは、白隠の言葉でしたか。
  秦さんの「私語の刻」に訪れる人なら、当然「この改憲案の恐ろしさ」を理解していただけると信じています。
 第二次大戦で途方もない血を流して勝ち得た憲法を守るために、戦死者の御霊のためにも、このような「どさくさまぎれの改憲」を実現させてはなりません。広く「自民党改憲案」の恐ろしさをお伝え下さい。日本のテレビ新聞報道はもう死んでいますから。
 
 そもそも今回の選挙の最大の争点は、原発推進か、脱原発かです。消費税とTPPです。この自分たちの利権に都合の悪い争点隠しに「改憲、徴兵制」まして や「核兵器の開発」を出してくる自民党・自民系列党の、ほとんど狂気。そしてその破滅の足音にともすれば無知無関心な国民の異様さ。
 日本ペンクラブは何をしているのでしょうか。   一読者

* 近刊の湖の本にわたしは「崩壊の跫音」と副題している。もはや跫音でなく、「崩壊の開始」でもある。何としても食い止めなくては。

* 晩は、気の入っている小説へ打ち込んでいた。


* 十二月二日 日

* 血圧116-54(57) 血糖値86  体重64.8kg  朝、牛乳粥 栗 カステら 珈琲 朝の服薬 テレビ討論二つ聴く 校了作業 午、掛け蕎麦 カステラ 焼芋 午の服薬 午後仕事 晩は、粥、餃子 カステラ 晩の服薬 排便二度   

* 「三年で初送電分離」など「未来の党」が「卒原発」の工程表をいちはやく公表した。
 「仕組み」として、
・原子力損害賠償金額の大幅引き上げ(20兆円規模)
・使用済み燃料の総量規制と100年の乾式貯蔵場所決定
・建設中を含む原発の新増設禁止
 「三年間の経過措置」として、
・電力会社に値上げ相当分の差額を交付国債で給付
・東京電力は法的整理し@電力供給A損害賠償B福島原発事故処理対応 に三分割
・発送電分離を含む電力システム改革を実施
 「中後期プログラム」として、
・開かれた競争力のある電力エネルギー市場の確立
・再生可能エネルギーの飛躍的な普及

* 当面の「工程」として説得力も内容も、賛同に値している。ただ「廃炉」の実際は技術的に長期間を必要とする難儀なもの。「廃炉の決定」は出来るが「廃炉」の実施工程とは切り離して謂う方が適切で、誤解を招かない。
 討論会で維新の会の橋下代表代行は、目の敵のように「未来の党」にケチをつけたがっていたが、石原慎太郎代表の「核兵器開発」という「オブション(選択 肢)」を「手放すことは出来ない、だから脱原発など出来ない」という「各党首討論会」での「公言」を、橋下代行は国民へどう説得するのか、代表公言を否認 するのか肯定したのか、それを「責任ある言葉で表明」するのが先決だ。
 「原発」を「核兵器開発」の拠点として温存持続するのか。はっきり言うべし。
 代表と代行の齟齬が動かせなくなれば互いに「離れ」て、政見を矛盾のないものにせよ。国民への最大義務を知らんふりで棚上げすることは許されない。
 現に幹事長松井氏は、石原代表の、「既設の原発は30年代までにフェイドアウト(消失)する」とした党の政策実例を「直させる」という否認表明に公然反対を示している。代表・代行・幹事長の見逃せぬ齟齬・矛盾は罪が深い。
 古賀茂明維新の会特別顧問は、明瞭に「石原慎太郎や、石原が総理に推薦すると公言した老耄、たちあがれ日本の連中との決別」を、橋下代行に「切言」しているではないか。
 未来の党の飯田代表代行に橋下は偏見の個人攻撃を連発しているが、飯田氏「独り」の専断政策などということは、公党として考えがたく嘉田代表も断乎否認していた。維新の会は、まるで「未来の党」によほど怯えているという感想をもった。

* 自民党安倍晋三の政見が、総理として無残に落第した六年前の公約とほとんど変わらず、より超保守化し軍事化意思の表明に突出している。ことに改悪改憲志向、教育の反動化志向は、「民意」の大方に大幅にズレた独善強行意図が露わである。にかはてと

* 敦賀原発の敷地内断層は「大変活動的」と規制委員会チームの「全員の観測は共通」したと報じられている。国は、規制委は、此処で誤魔化しや隠蔽を絶対にしては成らない。
 放射性廃棄物処理が安全に担保されない今、「原発再稼働」は問題に成らないとする嘉田「未来の党」代表の断言は当然である。

* 新創作の構想が定まろうとしかけている。入り口を、堅めた。奔放なほどモチーフの真ん中へ打ち込んで行きたい。


* 十二月三日 月

* 血圧128-51(61) 血糖値86  体重64.8kg  朝、ほぐし鮭と白粥 カステラ一切 柿 蜂蜜紅茶 朝の服薬 軟排便 午は、きつね饂飩 午の服薬 午後の仕事 晩は、カレーライス 甘納豆で抹茶 晩の服薬 仮眠 夜の仕事

* 「卒原発」を公約した「未来の党」の「びわこ宣言」を積極的に、小選挙区でも比例でも、わたしは支持する。

* 都知事選でも、「反原発」を「すべて即時停止・廃止」と明瞭にし、都民に優しい公約をかかげた宇都宮健児氏わたしはを支持する。
 「国が認めれば再稼働」という松沢候補の「国」そのものが欺瞞と隠蔽を率先してする時代ではないか。
 「長期的な工程表を」などと、問題のなし崩し引き延ばしにしか資しない「原点」意思の欠損した^P候補にも失望している。基本意思の表明を欠いていては、信頼はもちにくい。
* 衆院選調査では、「原発ゼロに」59%、「消費増税反対」に55%と出ており、もっと上昇するだろう。
 自民党に恣な政権を与えるのは危険きわまりない。自民と維新は日本の軍国化を下心に接近し、民主も本音は自民との結託に生き残りを策している。
 二大政党「神話」は確実に崩壊している。政界再編を望みつつ「脱原発」「暮らし第一」の国民の意思は、必然「未来の党」へ集約されて行くだろう、それこ そ望ましい。「未来の党」こそ、「リベラル」今日只今を動かし未来の旗印となろう。「女性」のちからを「未来」のためにも国政に結集する時機にもある。

* 敦賀原発に新たに未知の活断層の影響が憂慮されている。

* 北朝鮮のミサイルを「特別心配していない」と韓国大統領は話している。
 さよう。本気で心配しなければならない北からのミサイル「仮想指標」は、日本しかない。アメリカも論外。ミサイルの「精度」が実験の繰り返しから「確 定」してくれば、北のミサイルは、日本列島のいかなる「原発」も打ち崩せるぞと、強迫外交に強く転じてくる懼れは濃いのだ。「原発即時廃止」「廃炉へ確か な促進」が喫緊の「日本列島防衛」になることを、国民も政治家も財界も胆に銘じておく時機に、今こそ、ある。

* 以下の引用・紹介は、その神髄までがわたし自身の中にもあると信じたい。信じて生きよう、もっと先まで。

 ☆ ロマン・ロラン作『愛と死との戯れ』より 片山俊彦訳
 ソフィー(夫ジェローム・ド・クールヴォアジエへ。ロベスピエールら革命保安委員会の捕吏の今にもかけつけるのを感じながら)  ーーそうです、もちろ ん人間というものは平凡で、下劣で、残酷で、信用のおけないものですわ。……ああ、悲しいことに、私たち自身の中にどんなにたくさんの怪物がかくれている か、とても口には言えないような、私たちを低く卑しくするような、どんなにたくさんの恥知らずな考えがあるかを私よく知り過ぎておりますわ。
 ……けれど私たちはそれを知ったからこそ、人々を自由にし人々を高めるためにこの(フランス)革命を始めたのですわ。私たちはその困難と危険とを知らな くはなかったのです。おそらくあんまり早く勝利を得られるように信じたことが私たちの誤りだったのでしょう。けれどこの解放運動の最初の頃、フランスのあ らゆる魂が互いに抱き合ったことは善いことでした。それを残念に思う理由があるでしょうか? それは永く続くことはできませんでした。けれど、私たちが実 際に味わったこの幸福を誰か羨ましく思わないでいられる者があるでしょうか? 未来の世界から振り返るときでも、誰かそれを羨まない人があるでしょうか?  この幸福の花を摘んだのは私たちなのです。もうその花は枯れました。それ以来私たちはあの幸福の一瞬間の値を払っています。それは苦しい仕事です。けれ ど仕方のないことですわ。
 あなたはあなたの科学のお仕事の中で自然の法則の苛酷なことと、それを受け入れることとを知るようになりなさった。この場合に、今更懐疑的になったり諦 めたりなさるわけはございませんわ。山々を越えた向うの土地と、うねり流れる河とをーー「人間精神の進歩」を、大きい想像力の中に抱きしめることができる には十分なだけ高い場所に登る力をあなたは持っていらっしゃる。その進展の道筋をたどるためには二年三年の月日で十分だなどとあなたは一度だってお信じに なったことはないではございませんか。いくつもの障害やいくつもの後もどりをするいく世紀の姿を、あなたは前もって見通していらっしゃる。いいえ、いい え、私たちは「約束された國」を自分の目で見ることはありますまい。けれど、どこにその国があるかということを知り、そこへ行く道を示すだけで十分ではご ざいませんか? 
 他の人たちが来るでしょう。もっと若い、もっと強い人たちが来るでしょう。その人たちは、中絶された道を、新しい力をもって歩きつづけて行くでしょう。 私たちはこの現在につながれています。やがて来る人々のことを考えて心を慰めましょう! あなたを圧しつける恐ろしい出来事に対して、ジェローム、あなた はご自分の中にたくさんの保護者を持っていらっしやるのですわ。あなたご自身のお仕事、あなたの研究とあなたの発見ーー人間の愚かさも悪意もそこへは届か ない「学問の国」を、あなたは持っていらっしゃるのですわ。その学問は、人々が望もうと望むまいと、ついにいつかは人々に解放を与えることでしょう?

 (そして最期の最後に、迫りくる跫音を聞きながら) 
 ソフィー  (心に苦悩をたたえて) ほんとうにせめて一人の子供でも残してあれば! ……いったいなんのために、なんのために、人生が私たちに与えられたのでしょう?
 ジェローム  (確固として) それにうち克つために。

* われわれ日本人は、こういう深い「幸福」を、一度もまだ持てていない。そして今の日本の多くはないが一部の原子科学者は、今が今の目先の利権や利得のあさましい奴隷になってきた。

 ☆ 拝啓 
 今年も押し詰ってまいりました。しわ刷り総選挙で騒がしい昨今です。戦後の日本の歩みを否定するような勇ましい叫号も聞えてきます。歴史の転回を前にしたエアーポケットの中にいるような感がしないでもないです。
 本年は「湖の本」や平凡社文庫など数多くの御著書をお贈り下さいまして有難うございました。別便にてささやかな品を御礼のしるしに送らせて頂きました。御健勝を祈り上げます。敬具    元岩波書店編集者

 ☆ いつも湖の本
 ありがとうございます。造詣の深さに感心しています。(喪中挨拶に添えて)  大阪市 ペン会員

  ☆ 湖の本
 お送りいただけましたとのこと、楽しみにしています。ご体調の万全ではない中で、ありがとうございました。
  もう十二月に入ってしまいました。この一年を振り返ると、ひとり相撲の妄想と煩悶以外の何もしてこなかったような気がいたします。みづうみ の二回の手術と三回のご入院はもちろん最大の心配でしたし、放射能汚染という目に見えない恐怖、将来の過酷な被害を調べて認めていく過程は、ほんとうにし んどいことでした。
 福島はもうどうにもならない、東京の経済的クラッシュを防ぐために、徹底的に汚染と健康被害を隠蔽するのが国策である以上、すべてが露見した時には手遅 れである以上、残された人生の目的は、子どもの未来を守るために死に物狂いになることしかないと、そんなふうに過ごした一年でした。
  来年はもう少し自分の人生を、美しいものも追いかけたいけれど、既に日本の半分を失ってしまった嘆きと、残された半分も失いそうな悲しみは益々深まりそうです。
 みづうみのように一瞬で他界にワープする能力は、孤独な幼少期を過ごした人に与えられる天からの贈り物かもしれません。
 寒くなりました。
 お風邪などお召しになりませんよう、お元気にお誕生日をお迎えください。 鴨  鴨の中の一つの鴨を見てゐたり  虚子

* 十一時を過ぎている。今日もしたい「仕事」をして過ごした。



* 十二月四日 火

* 血圧124-63(59) 血糖値77  体重64.5kg  朝、高麗屋蕎麦と卵出汁 ヤクルト 朝の服薬 午前仕事 午、焼売二つしか食べられず、蒸かし芋も。 午の服薬 午後の仕事 創作はかどる。 ものを腹に 入れると腹中が賑やかに騒ぎ立て、息づかいにも響く。 もう一つの最近の異常は、とくに夜中、色素沈着の這い上がってきている脚、足首に猛烈な痒みを覚え る。発疹は認めにくいが、無数の点となって色素沈着が観て取れる。抗癌剤「TS1」の副作用にも「痒み」出ることが明記されているが、感染症内科から処方 されている二種類の錠剤にも「痒み」が出るかもと説明書にある。手先のしびれ、足裏の鈍重感も、そして相変わらずの眼の疲労と霞み、涙、洟水、みなずうっ と日頃悩まされている。しかし痛い苦しみは皆無で、頭髪がむちゃに減ってきてもいないし、全て堪えられる。しんどくなれば、瞑目し、寝るか湯に浸かるかす ればラクになる。楽しみがあればほんとうに何でもない。ただものが美味しく食べられれば嬉しいのだが。食べられる種類は或いは増えてきたのかも知れぬが、 大方は全く味が分からないか、甚だしく苦い。加えて濃い粘体となった痰のような唾を吐いている時がある。 晩は、強飯 林檎三分一 甘納豆 蜂蜜 長生殿 など甘味 晩の服薬 下痢二度 晩の仕事 入浴読書六冊 浴後体重64.4kg

* 衆議院選挙、告示。結果がどうあれ総選挙を「傍観」していてはならぬ。それは自分の足下に火を放つに同じい。
 「国語」の学習がなにより大切、「善い選挙」の為されるためにと碩学柳田国男は語っていた。

* 福島第一作業員の四割が「労働条件明示」がないという。東電3200人の調査で判明した。「偽装請負の疑い」も出ている。汚い「東電」が少しも洗われていない。監督官庁は経産省ではないのか。「結託」があるのか。

* 新党日本が「再稼働せず」「廃炉は國の責任で」と公約した。とにもかくにも「再稼働せず」という具体的決断からスタートするのが善い。当然「新設」などさせないこと。

* 原発事故時の緊急被曝医療対策として、甲状腺被曝を抑える安定沃素剤の「事前配布配布が必要」と規制委員会の検討チームが提言しているが、実施への体制は全く出来ていない。海外からも対策不備が咎められていた。
 放射性プルーム(雲)は、途方もなく日本列島の空気に漂い流れているという認識が大切だ。

* 女性に動いて欲しい、「廃原発」への勢いに合理性と必然性と必要性とのために。

* 就寝前読書に、ツルゲーネフ『猟人日記』上下巻と、デヴィッド・コソフ作『マサダの声』を新たに加えた。
 『猟人日記』は、これを読んだロシアの皇太子のちのアレクサンドル二世はすぐ、農奴解放令を発布の決心をしたという逸話で有名な作だが、逸話自体はもう 風化している。それよりも「ホーリーとカリーヌイチ」にはじまる原作の多くの短篇があまりにも素晴らしい。読み始めてわたしは心地よい乗り物に大地を運ば れて行くような快感に、たちまちに魅了されていた。
 『マサダの声』はローマ対ユダヤの歴史劇。「マサダで生き残ったのはわずか七人だった。エレアザルの親類で思慮と教育の点ではほかのどの女性よりも優れ ていた女性一人と、年老いた婦人一人と、五人の子供」と、ヨセフスの『ユダヤ戦記』が書き残していた。わたしには先入観真っ白の未踏の世界かもしれない。 筑摩以来の友人で歌人の持田鋼一郎君の翻訳である。

 ☆ フローベールに聴く  「紋切型辞典」小倉孝誠さんの訳に拠って。 
 「秘密資金」とは「大臣たちがひとを買収するために用いる多額の金。」「憤慨すべし」と。いまの日本では内閣官房にも外務省ほかにも秘密の「埋蔵金」が溢れているという。不思議に内閣がつぶれると、官房の機密費金庫はカラっぽに持ちさせれるとか。憤慨すべきである。
 「比喩」は「詩にはいつでも多すぎる」と。謂えている。
 「描写」も「小説にはいつでも多すぎる」と。表現でなくてはと、わたしも思うが。
 「病人」を元気づけるには「その病気を笑い飛ばし、苦しくなんかないだろうと言うこと」と。あんまりだとも思うが、わたしも鬱の人の鬱をまったく知らんふりして「普通に、普通に」付き合うことにしている。それがいいと感じてきたから。
 「フェンシング」は「秘密の突きを学ぶのに役立つ」と。「秘密の突き」って、何?
 「フォルナリーナ」は「美人だった。それ以上のことは知る必要なし」と。彼女は画家ラファエロのモデルで愛人でもあった。
 「あのご婦人方は客間にいます」とは「絶対に言わないこと」と。「ご婦人(dame)には俗語で売春婦の意味があり、「客間(salon)」には娼家という意味があるから。
 「不道徳」という「この語をはっきりと発音すれば、言った人の評判を高める」とは。はやいもの勝ちのような。
 「分」 「一分がどんなに長いものか、ひとは気づいていない」と。
 「文学」は「閑人のすること」と。やれやれ。
 「ペテン師」は「みんな上流社会の人間」と。そうのようでもあるな「一家の父親の象徴」と。よくぞ言うて下さる。

* まだ早稲田にいるのか、定年を迎えたか千葉俊二君から寺田寅彦がらみの新著が贈られてきた。ちょっと前にも「松子神話」がどうしたとか謂う谷崎論の本が贈られてきたが読めていない。谷崎は、全集をみなもう一度楽しみ読んでから死にたいと願っているのだが。
 『炎の接吻(エル・チョクロ)』という中島利三郎という人から小説が贈られてきている。こういう短篇集が、ぽつぽつと届く。なかなか気をそそる松澤茂雄 という画家の裸婦で表紙が飾ってあり、この繪ほど小説も気をそそるかなあと思って、渚に臥したヌード表紙を眺めている。作者は川口市の人らしい。 
 読んでみると、冗漫ではない筆つきだが、作の空気は乾ききっていて、必然の動機からでなく、手習いのように次から次へ書いている。花の魅惑はない。こう いうカサカサの習作を以てして「小説を書く」ことと心得た書き手が多すぎる。小説塾のような雑誌育ちの書き手は、命がけで書く動機も主題も持っていないよ うだ。危ない危ない。
 メールアドレスが奥付に書いてあれば、こん感想も書き送ってあけられるのに。
 もっともっと名作を読んで読んで何かを悟らなくては。日本の物でなくていい。現代の物でなくてもいい。わたしは名作でなくてはもう楽しんでいる残り時間がない。



* 十二月五日 水

* 血圧131-65(65) 血糖値 91  体重64.5.kg  朝 高麗屋蕎麦  炒り豆少し 焼酎少し 長生殿一枚 朝の服薬 午前の仕事 午は抜き 午後の仕事 晩は、薩摩芋揚げ数枚 酒粕 炒り豆 焼酎など 晩の服薬 入浴読書  晩の仕事
          
* 中村勘三郎死すと。嗚呼 なんたる悲報。天才であった。あんなにわたしたちを心底楽しませ嬉しがらせ幸せにしてくれた、いつもいつもそうであった歌舞 伎役者はかつていなかった。もう一度で良いから帰ってきて、舞台からわたしたちをあの笑顔で観てほしい。平成中村座は偉業であった。あの平場にすわってわ たしたちはどんなに喝采し笑いまた怖がり、そして何度もビックリ仰天したことであったろう。妻の頭の上へ降ってきて、妻のペットボトルをひょいと取り上げ た勘三郎の幽霊よ。もういちど、ああいう舞台も、また鏡獅子の弥生のような美貌も、息子二人をしたがえて毛振りした獅子の偉容も、見せて欲しい。嗚呼 泣 けてくる。

* 殆ど一日中中村屋追悼の映像に、泣けてやまず。わたしよりまるまる二十若い。泣かずにおれぬ。病の激しさを思う。だれもだれも、どうか病に陥るな。

* 「花」さんとは久しいメルトモだったことは、多くの人が知っている。その人が、最後にとてもご機嫌な気持ちよいいつものままのメールをくれていて、も う五ヶ月ちかくフツと便りがない。湖の本の支払いなども至って律儀に本が届くとほとんど折り返し送金してくる人であった、それが二冊分届かない。メールを 二、三度送ったが返事がない。
 静岡まで出てクリニックの診療を受けているとは前にメールで聞いていた。こどもが欲しくて、不妊の診療を受けていた。採卵から着床、受精、そして妊娠ま で、成功までが難しいと聞いている。不慮の事故で亡くなったのかもしれないとすら心配している。ご主人からも何の通信もない。
 人の命のはかなさを、年ごとに痛いように身近に感じている。「花」さん、無事だといいがと祈っている。

* 維新の会がはや自民と連立を公言してきた。橋下は「初心」を忘れたのか。もはや維新の会は「暴走老人会」に乗っ取られている。大阪の人たち、情けない ではないか。石原慎太郎に名をなさしめる目的の維新の会であったのか。バカげている。「脱原発」に反対して「原発容認」を鮮明にしているのは「自民と維 新」に極まったと報道されている。ここでも橋下は初心に背いて変節している。とても信頼などできぬ。
 「自民と維新の会」とは日本の未来のために拒絶する。原発廃止で電気料金が20%あがれば日本の経済は全滅だなどという石原慎太郎の認識の狭さと間違い はすでに多く語られている。老耄石原を代表に奉っている連中の「うそくささ」には呆れる。原発は経済を圧迫してむしろあまりに高くつくことは、今では国民 の多くがはっきり知っている。

* 「憲法の改悪阻止 全力でやる」社民党、「日本から原発なくす」日本未来の党、「消費税増税許さない」共産党を支持する。スローガンだけで謂えば「脱世襲政治を進める」民主党、「政治家個人を選んで」新党日本に目をとめる。

* 「落選運動」にも期待する。真に善きを選ぶためにも、國と国民とを苦しめそうな党と候補とは「落とさねば」ならない、分かり切ったことだ。「原発推進 派の連中」を正確にあぶり出して「落選」させねばならぬ。何度も此処に書いてきた。有効にアンケートで問いかけ、答えぬ者も投票対象から抹消してゆくとよ い。

 ☆ フローベールに聴く  「紋切型辞典」小倉孝誠さんの訳に拠って。 
 「弁護士」は「法廷で弁護や抗弁をしつけているので、判断力が歪んでいる」と。謂えていると思う。
 「便秘」には「文学者みんなが悩んでいる」し政治関係物らの場合「政治的信条に影響を及ぼす」と。ウーン。
 「棒」は「剣より恐ろしい」と。どんな「棒」なのかなあ。
 「封建制」は「それが何だかはっきり分からないが、とにかく糾弾すべし」と。われわれの敗戦後にもそんなふうに「糾弾」した世相があった。
 「放縦」は「大都市にしか見られない」と。かなり鋭い。
 「放蕩」とは「独身者がわずらうあらゆる病気の原因」だと。なるほどね。
 「方法」は「なんの役にも立たない」と。たしかに実践のない「方法」ではね。
 「法律」なんて「何だか分からない」とは、大抵の場合まったくその通り。法律なんてうさんくさいものの代表かも知れないまま、われわれは法治国家の民だと威張っている。かなり滑稽。
 「ナポレオンがそうであったように」誰しも「自分の運命の」「星」を持っていると。分からない。
 「没頭」 「何かに深く心を奪われ、じっとしていると、それだけいっそう没頭の度合いは『強く』なる」と。 性の秘技かのように語っているのでは。
 「ポピリウスの円」とは「誰かをのっぴきならない状態に追い込むという意味になった。」ポピリウスは古代ローマの政治家。紀元前、エジプトに侵攻したし たシリア王に、すぐ撤退するようにとローマ元老院の命を伝えるため派遣された。彼はシリア王アンティオコスのまわりに円を描き、その円から出る前に返答せ よと迫り、命に従わせた。 非道な紛争の火種となっている今のシリア大統領にも、まわりに円を描きたいものだ。
 「ホメロス」は「じつは存在しなかった人間である」と。そうかも知れぬ。
 「埋葬」するのが「早すぎるという危険性がある。「死体を掘り起こしてみたら、飢えを満たすためにみずからの体をむさぼり食っていた!」と。
 「マキアヴェリのことは「たとえ読んだことがなくても、極悪人と見なすべし」と。
 「マキアヴェリスム」は「強烈で恐ろしい言葉だから、口にするときはかならず身震いすること」と。
 「幕間」は「いつも長すぎる」と。ククク。
 「枕」は「けっして使ってはならない。猫背になる」とか。考えたこともなかった。
 「魔術」は「馬鹿にすべし。」
 「マスターベーション」のことは「アカデミー辞典に」「自然の要請にそむき、一般にきわめて悪い結果をもたらす冒涜行為」と「定義されている」という。  最近読んだ現代の女性社会学者たちは、性の「スキル」を覚えて「面白い楽しいセックス」のためにも「マスターベーションョン」を大声で慫慂していた。 まっさかさま。
 「摩滅した」には、「古いものはすべて摩滅しているし、摩滅しているものはすべて古い」と。深い意味があるのだろうか。「骨董品を買うときに銘記すべし」とも添えてあるが。
 「丸いふくらみ」とは「女性の乳房を指すために用いられる慎みぶかい言葉。『あなたのすてきな丸いふくらみに接吻させてください』」などと。アカデミー会員たちが使用した俗語だと謂う。
 「丸屋根」は「建築上の偉業。どのようにして支えられているのだろうか?」と。 何か含意のありそうな。
 パリの「水」を「飲むと下痢になる。」「パリの水は臭い」そうだ。

* あすで、休薬一週間がもう終え、明後日からまた抗癌剤を呑む二週間が始まる。腫瘍内科へ受診そして処方薬をもらってくる。気をしっかり強く持ち、挫けず立ち向かう。

* 岡玲子さん(芹沢光治郎さんの娘さん)からとても珍しい林檎を頂戴した。有難う存じます。

* 妻の妹からも、初めてカードでの見舞いを、クッキーとともに、もらった。恐縮。

* 母ちがいの末の妹からは電話での見舞いがあったとか。

* 数日前に茅野の松下君からもらった手紙に、返事が書けてない。御免。
                                      


* 十二月六日 木

*  血圧85-44(77)  血糖値73  両眼の涙変わらず 体重64.4.kg   朝、振掛け茶漬け ヤクルト ヨーグルト 朝の服薬 聖路加腫瘍内科の血液検査結果、腫瘍マーカーの値が増えているので、緊急にCTスキャン 加えて抗癌 剤の副作用が重いのと、眼の角膜を副作用が傷つけている懼れがあり、やはり緊急に眼科で角膜を診てもらいましょうと。癌マーカーの値が増えているのが、癌 細胞の残存や転移・増殖を示しているのかどうかは、CTスキャンで判断しますと。いずれにし抗癌剤副作用が角膜を傷つけているとすると放置しては失明にも いたるので、明日から予定のの服薬を止め、もう一週間休薬をのばして状況に改善があるか診ましょうと。
  眼科では、腫瘍内科から依頼した医師でなく、いつもの担当医が診察し、すこし角膜は傷ついており、周辺に充血もみられますねと。フルメトロンの点眼継 続に効果を期待しましょうと。フルメトロンはもう一ヶ月以上用いている。地元の眼科医にはフルメトロンはよした方が良いと言われている。病院眼科の担当医 に、抗癌剤「TS1」の認識や理解があるのかどうか覚束ない。
 処方薬を受けとり、かなり遅い昼夜兼帯の食事を銀座三笠会館中華料理で。幸い、ほぼ全てを食べた。香辛料などの強い刺激がむしろ食の苦さを抑えてくれる のだろう。貧血感覚相変わらずつよく、視界不鮮明の儘、よたよたと杖にたすけられ、銀座から池袋経由、保谷からタクシーで帰宅。今日は終日、視界眩しくて 閉口。

* 「もんじゅ」機器点検の不備はじつに9600件にのぼっていると。「安全」どころか、大事故を誘発しかねない。国民の過半数は原発再稼働に反対してい る。これが「反自民・反公明・反維新」に繋がってほしい。「民主」へ失望顕著なのは当然。「反民主」票が自民へ安易に流れないように。「未来の党」では嘉 田代表と一兵卒の小沢一郎とに齟齬があらわれないよう重々賢明であって欲しい。「弱音」を吐いてはいけない。

* 内閣官房報償費=機密費の「使途公開はできないと官房長官が表明している。なぜか。「機密費」を抱え込んだ伏魔殿がどんなに不明朗か。十三年前の田中真紀子外相の奮闘、そして小泉総理による理不尽な更迭を、今更に思い出す。

 ☆ お元気ですか、みづうみ。
  勘三郎さんの訃報に、どんなに気落ちなさっていらっしゃるかしらと、とても悲しんでいます。
 素晴らしい役者さんでした。そしてこれから益々花の咲く方でした。無念です。
 
 
* それにつけて、人の笑いそうな危惧を感じている。勘三郎の急逝は、何かの始まりにすぎない気がしてならない。被曝との因果関係を考えずにいられない。被曝はあらゆる健康被害にかかわるものだ。
 歌舞伎役者という職業は、一般人に比べて格段に被曝量が多いと、心配とまでは言わないが、感じてはいたのである。髪の毛の先から靴の裏まで、あらゆる放 射性物質をつけた人間の多く集まる劇場で、連日演じて踊って激しく「呼気」を使うことや、外食の多いことなど懸念材料はそろっている。しかも中村座の浅草 で半年ちかい連続の大奮闘。病み上がりで体力の落ちていたところに、被曝の影響が致命的なことになったので無いことを祈りたいが、今の今の福島からはけっ して遠隔地でない。東京。ついつい疑わしいと歎きたくなる。
 妄想が過ぎると非難されるかも。科学的な立証などできることではない、只今は。しかし同じように考えている人間が一定数いることはたしかでなかろうか。将来、「統計」として正しい結果が明らかになった時には、すべては取返しがつかない。
 NHKで死人が増えていて火葬場がとれないという特集があったそうだ。昨年から噂になっていたこ。この現象をみて何も感じない人間と、もう「始まっている」と感じる人間の差は、埋めがたいものがある。
  東京の子どもにも「甲状腺の嚢胞」が、福島に近いレベルで発見されているという。深刻なのは、子どもの甲状腺を調べた東京在住の親は、被曝 に神経質で、防御をいつも考えてきた親だということ。心配していなければ調べたりしないはず。つまり、警戒していない両親の子どもを調べれば、東京の実態 はさらに恐ろしいことになっているかも知れぬ。
 「原発をなくしたら経済がだめになる」というのは妄言である。経済が潰れる前に、子どもが、国民が死んでしまいかねない。
 今回の選挙は「脱原発の道筋」をつけ、日本人が生き延びるか、それとも愚かな為政者と共に日本が滅びるかの「究極の選択」だと思っている人は想像以上に 多いのではないか。「原発推進」の党を日本の政治の真ん中に置いたのでは、未来日本を支えねばならない子どもたちの命よりも、目先のお金という選択を、日 本人が選んだということになる。その選択を正しいと思わない人間と、まあ大丈夫だろうと根拠なく信じる人間の差は、天文学的だす。
  最近は、自分の身体にいつ何が起きてもふしぎではない日本であり東京なのだ、と、痛いように感じている。汚染瓦礫を燃やし、東京湾に埋め続 ければ、東京は、いずれ福島なみに人の住めない場所になるかも。瓦礫を燃やさないと約束する都知事候補と、そうでない候補の、どちらを選ぶのか。
 わたしは個々の原発の、たとえ安全基準を表面守っていても、放射能はきわめて微量、極く微量ずつ漏れている感じている。それは、これまでにも書いてき た。原発の存在する地域だけのことではない、もしもわたしの感じ方にすこしでも理があるなら、日本列島のぜんぶが少しずつ少しずつ汚染されているのだ。不 妊症の目に見えて増加しているなど、被曝の日常的浸透と、はたして無縁と謂えるのだろうか。

* 奈良の阿部陽子さんから吉野葛を頂戴した。葛は大好き。今日も築地で葛切りを買って帰ったところ。
 和歌山すさみの妻の従弟の店から、たくさんの干物魚をもらった。梭子魚がとくに美味い。食べられますように。

* フリーターの外科医大門未知子のドラマの面白いこと。息を呑ませる。まことピカ一女優の魅力満点。

* さ、今夜は休ませてもらう。 


* 十二月七日 金

*  血圧134-64(59)  血糖値77  両眼の涙変わらず 右眼不調かすかに痛みも 体重64.8.kg   朝、高麗屋蕎麦 小饅頭一つ 酒粕少し ヤクルト 朝の服薬 快排便  地元の佐藤眼科受診眼鏡も含めて視力動揺しているが、角膜に心配はないと。目薬は、フルメトロンもクラビットもやめ、緑内障用のタブロスを規則的に一日一 度点眼、他に、ヒアレイン「角結膜上皮障害治療用点眼剤」を回数に拘泥せず使用するようにと指導された。午は、スパゲティ、柿、酒粕など。 服薬 疲労し て午後休息 晩は、梭子魚一尾 飯 海苔 ほぐし酒 晩の服薬 強 い地震 眼の不調に疲れる 晩も休息したい。

* 午後五時過ぎ、激しく長い揺れの地震におどろく、東北から銚子辺までに津波警報が出た。福島原発の壊れ建屋の四号機への影響が心配。

* 義妹から手編みの襟巻きをもらう。じつは寒くてはやくからボロ襟巻きを寝ているときも欠かせなかった。感謝。
 吉野葛が美味しい。近所で買った白鶴の生酒粕も、焼酎も口に合っている。今夜は梭子魚(かます)も一尾食べられた。せいぜい食べるようにしている。間食もできるだけ好きにしている。

 ☆ 秦先生
 しばらく失礼しております.ご苦労多いことと拝察いたしますが,気持ちのご健勝とのこと,嬉しく思います.
 今年は春から自分の研究室を立ち上げまして,仲間と 3 人の小所帯ですが,これまでより自由に元気に仕事させていただいております.
 秋から,十年の期限つきで京大の研究者も兼任することとなり,以前よりも国内外の移動が多くなりました.営業マンのようでもあり,自分の本来の研究とのバランスが難しいです.ご連絡が滞りましたことをご容赦いただけますと幸いです.
 先日,ようやく「超漢字」をインストールすることができました.最近のパソコンと相性が悪く,苦労いたしましたが,一昔前のパソコンの,さらに仮想空間 上で,動かすことができました.異字体をはじめとする漢字の多様性に強く,先生のような小説をお書きになる場合には,確かに便利だと思います.国語と向き 合うこととなります.また,実身化身をはじめとする基本ソフトの設計思想も大変面白いと思いました.Windows や MacOS よりも便利な部分があります.現在は,ネットワークと接続できておらず,まだ使いきれていませんが,今後いろいろ遊んでみて,ご報告できればと思います.
 お礼をきちんと申し上げるのが遅くなりまして,これまた申し訳ありませんが,(秦建日子作)『SOKKI!』も,大変楽しませていただきました.妻は速 記で食べておりまして,僕の大学院の学費も,家を建てる頭金も,そこから出ていますので,当初「速記は世間の役に立たない」という言い方に違和感がありま した.しかしながら,学生時代の爽快な空気感を思い出させてくれました.
 勢いで,『殺してもいい命』『推理小説』なども拝読させていただきました.
 また,外科医をしてます兄は『サマーレスキュー 天空の診療所』がお気に入りだそうで,リアルな作品だと申しておりました.僕も鼻高々でした.
 選挙もあり,いろいろお忙しいことと思いますが,ご自愛のほどお祈りいたします.  鷲  東工大卒業生

* この人と教授室ではじめて対話したことを、今も、よく覚えている。もうそろそろ二昔も前になるか。よい仕事が研究成果と帯同して成りますように。  


* 十二月八日 土

*  血圧132-63(54)  血糖値84  両眼眩い 体重65.1.kg   朝、卵生姜出汁釜揚げうどん ヤクルト 吉野葛湯 朝の服薬 午前仕事
 午、葛切 梭子魚一尾 午の服薬 午後の仕事 涙より洟水 両眼眩い 晩は、吉野葛湯 梭子魚 蜆汁 飯に塩昆布 晩の服薬 晩の仕事九時まで十分に。眼霞んで眼鏡が役に立たない。  

* 昨日の晩、池袋での仕事からそのまま自動車で建日子が回り道して来てくれた。わたしは熟睡していたが起きて、歓談。相変わらず小説、劇作・演出、小 説、秦組の養成と忙しさの極みだが、それで此処まで来たのだから、体調と気力とが続いている限りはそのまま運転していていいだろうと、健康は案じながら眺 めている。彼に、平成中村座を観せておいてよかった。勘三郎の舞台には建日子も多く深くを感じ取っていたようだ。よかった。幸四郎の弁慶も観ておかせた。 これにも感動したようで、甲斐ががあった。あれこれ言っても歌舞伎はいまもなお他のジャンルを大圧倒する熱源を腹に胸に足腰に、そして魂に孕んでいる。大 いにいいところを盗み取って活かして欲しい。     

* 昨日の津波が一メートルぐらいで済んでよかった。NHKが、すぐ、福島原発に「いまのところ」問題ないと報じたが、そんなに早くに問題が発見出来るわ けが無く、やはり、いくらかの「問題」は生じていたと後刻報じられていた。この辺の、微妙な報道の慎重さの有無が後刻の状況秘匿や隠蔽誤魔化しに繋がる。

* 昨日の私語に、「わたしは個々の原発の、たとえ安全基準を表面守っていても、放射能はきわめて微量、極く微量ずつ漏れていると感じている」と書いたの は、原子力に関わった人たちの間では「常識」のことが、一般には認知されていないだけで、わたし感じていることは、明らかな事実なのである。
 原発は事故でない平常運転している場合でも、放射能を少量洩らしている。原発では当たり前の事実と聞いている。原発反対運動の専門的な一部の人は、通常でも放射性物質が漏洩しているから反対していると漏れ聞いている。
 実際原発近隣の地域には癌が多いという事実が認知されているらしい。また、動力炉核燃料開発事業団、通称動燃の社員には女の子が多く生まれるというのは公然の秘密らしい。原子力関係者には、不自然に娘が多いのだという。微量の放射能の影響かといわれている。
 こういうことが公にならないのは、世界中同じで、そもそもウラン鉱山労働者の甚大な健康被害でさえ知られていない。原発作業員の被曝線量のごまかしは、 原発が開始された昔から当たり前に行われていたことあるす。原発は巨額マネーのために、社会的弱者を犠牲にして成り立つ、差別構造の根深い発電なのであ る。
 原発を止めなければいけない理由は十も二十もある。「再稼働を容認する政党や候補者に投票しては絶対にいけない」とわたしは固く思っている。
 昨日の地震で、原発の危険を再認識する有権者の増えることを祈っている。

* 原発報道の真摯一途を高く評価し称賛して「東京新聞」に菊池寛賞が与えられたのをわたしは心より協賛し喜んでいる。事実原発報道では他紙より図抜けて 厳格・公正・視野の広さ深さをいつも感じさせた。その姿勢をより広く少しでも多く伝えたいと、わたしはこの新聞社のよしと感じた記事や見出しを此処にも多 く取り込ませて貰っている。

* 志賀原発の活断層の濃厚な疑いは25年前にすでに指摘されていたが、規制当局は放置したまま今日に至っている。これが一事がが万事の國の、電力企業の放漫で怠惰であった。

* 「原発ゼロ」という表現が不味くて、イチャモンが付きすぎている。「まず再稼働の全面停止」というのが適切であろう。これならば関係当局の厳正な判断があれば「可能」なはず。共産党も社民党も未来の党も足並みを揃えて欲しい。
             
 ☆  お元気ですか、みづうみ。
 夕方の津波警報の出た地震は、大丈夫でいらっしゃいましたか。こちらの地区ではそれほど強い揺れではありませんでしたが、長く揺れたので福島がとても心 配でした。幸い福島近辺の震源ではありませんでしたが、地震直後の確認には少なくとも二時間はかかるそうです。案の定、後から福島に少しトラブルがあった ことがわかりました。
 昨日の病院の結果拝見しました。みづうみは腫瘍マーカーの数値に動揺なさることはないと思いますが、気分はよろしくないですね。ですが、勘三郎さんのよ うな若い世代とちがい、高齢者の場合は、癌は糖尿病のような慢性的疾患と聞いています。急に悪化するものではないので、気長におつきあいするおつもりで、 ご療養くださいますように。
 眼科の件について、以前にも書きましたが、ドクターに信頼をお感じになれない場合は、思い切って主治医を変えていただけませんでしょうか。
 みづうみの眼は命のように大切なものです。眼の具合が悪くならないことのほうが遥かに大切です。 朱
 
* 眼科のことでは、いちはやく「院と地元の、二人主治医制」を申請し、地元の、かつて知名度の高い病院の眼科責任者であった先生の診療に、気分も診察も信頼している。
 抗癌剤は昨日から休薬をさらに一週間延長されている。

* 湖の本114の再校ゲラが出そろった。跋文だけが入稿出来ていないのは選挙結果を待っている気分なのだが、それは末尾に数行残しておけば用が足りると、今日明日にも跋を書いてしまいたい。

* 恩師金田教授の奥様からも、自身療養中の京都の田村由美子さんからも、中学の同級生の横井千恵子さんからも、お見舞い頂いた。おそれいります。

 ☆ フローベールに聴く  「紋切型辞典」小倉孝誠さんの訳に拠って。 
 「婿」には、「婿殿! すべて終わりです」と言うべしと。
 「無実」については「平然としていれば、無実だという証拠になる」と。政治家も経営者も剽窃する学者も、役者そこのけだ。
 「無神論者」の「国民は生き永らえることができない」と。まさか。
 「夢想」 「自分に理解できない高尚な思想は『夢想』と呼ぶのがふさわしい」とは、下からの強がって皮肉な姿勢かも。
 「無能さ」 「常に『周知の』と形容される。」「無能なひとほど、野心だけは大いに持つべきである」と。
 「名誉」 「名誉の話になったら、次の詩句を引用すべし。」「名誉とは、崖が切り立って近づきがたい島のようなもの ひとたび離れたら、もはやそこには 戻れない。」(これは女性の名誉<貞操>について謂っている。) また「自分の名誉には常に心を配るべきだが、他人の名誉には配慮するにおよばない」と も。フッフッフ。
 「メロドラマ」は「一般の芝居ほど不道徳ではない」と。 ?
 「免状」は「学があるというしるし」だが「しかし何の証明にもならない」と。 謂えている。
  「猛獣使い」は「卑猥な方法を用いる」とは? この「猛獣」って女性のこと?
 「モザイク」 「その奥義は失われた」と。
 『物乞い」は「ほんとうは禁止するべきだが、けっして禁止されない」と。 大企業からの献金を「物乞い」して政治悪で挨拶している今日日本の悪弊こそ思い起こして「禁止」へ持ち込みたい、が。

* 勘三郎らの四国金平座の芝居を浮世絵を巧みに動画化しながら、面白く、懐かしく、涙もして観た。追悼番組はまだいろいろ続くだろう、希有のことである。

* 九時半。もう眼は霞んだまま、機械の字が読みづらい。



* 十二月九日 日

*  血圧124-59(55)  血糖値75  両眼から涙 洟水  体重65.4.kg   朝、卵生姜出汁釜揚げうどん ヤクルト   朝の服薬 午前の仕事
 午、蒸しパン 焼き芋 午の服薬 午後仕事 晩は、蜆の味噌汁二杯 揚げと小松菜とちくわの煮物 かます一尾 晩の服薬 晩はテレビを見て過ごす。

* 公明党が自民党の改憲姿勢にくみしないと表明したのは評価する。

* 晩には仕事も休み、ドラマ「平清盛」から。みごとな構成と迫力とで今回も唸らせた。清盛の「顔」の見事さ立派さは群を抜いている。こんなにも、演じられるのだと、感嘆。
 次いで亡き勘三郎の「髪結新三」を満喫、手代に亡き芝翫、家主に亡き冨十郎という名優を配し、拐かされる娘は玉三郎、矢田五郎源七には仁左衛門、中剃りに染五郎という豪勢な花形を率いるていに、中村屋の小悪党新三は、めっぽう粋で格好よくてほれぼれした。録画した。
 次いで「春興鏡獅子」も待ったなし録画。愛らしくも初々しい勘三郎弥生の美しい優しい所作を隅々まで堪能した。獅子は後刻に観るとして、次いで韓国の「イ・サン」を楽しんだ。



* 十二月十日 月

* 五十五年め、婚約の日

 五十(いそ)五つ冬をかぞへて愛(は)しけやし妻よ永遠(とことは)に晴れやかにあれ  遠

 新橋演舞場で待望の菊之助の花魁八つ橋を楽しんでくる。主役のあばた面の大尽佐野次郎左衛門は尾上菊五郎。敵役栄之丞は坂東三津五郎。この「籠釣瓶花街 酔醒」は、わたしが初めて南座で顔見世歌舞伎を観た芝居。初世中村吉右衛門とのちの中村歌右門の八つ橋。魂を抜かれたほどに少年のわたしも痺れた。敵役は 懐かしい守田勘弥で。
 以来玉三郎や福助などで繰り返し楽しんできたが、菊之助の八つ橋、待ちに待ちかねていた。
                            
*  血圧125-59(60)  血糖値80  両眼から涙 洟水  体重65.6.kg   朝、葛切り パン一つ 朝の服薬 午前仕事 快排便  午は、帝国ホテルでキールと洋食 新橋演舞場で二列目中央角席で歌舞伎を堪能 晩は劇場でとろろなめこ蕎麦、はねては一路帰宅。視野の動揺と涙、洟水には 閉口。

* 西銀座で見つけて、妻に、ちょっと様変わりの洒落た街着を買った。試着したまま帝国ホテルで昼食し、新橋演舞場へ。
 菊之助の花魁八つ橋は、道中の花道がよく、愛想づかしは甲の声ですこし理詰めになったが、なんと美しいことか。「籠釣瓶はよく斬れる」と無念の次郎左衛 門に斬り殺される直前の詫びを入れる八つ橋も、よかった。座敷に上がってからの御大尾上菊五郎の佐野熱演もなかなか丁寧な出来で、わたしは拍手した。三津 五郎の栄之丞も、松緑の治六も、さすがさまになって花があった。若い役者を大勢使っていて、それだけ芝居のワキは甘くなっていたが、はんなりと、舞台は終 始楽しめた。
 三津五郎の「奴道成寺」は面替えの所作軽やかに、気持ちよく踊ってくれた。「娘道成寺」の優艶で濃厚な所作の美しさとは趣は大いに違うけれど、亡き勘三 郎とは同年、踊れる男役者のそろそろ最右翼に三津五郎は立たねばならない、その気概が今夜の舞台にしんみりと感じ取れた。よかった。

* 一路帰ってきた。銀座から席を譲って貰い、ただもう瞑目していた。瞑目がいちばんラクなのだ。

* 晴れやかに、いい五十五年めであった。ともどもに、健やかでありたいもの、と

 願へども晴れぬ病ひの身を起こし来新年も「いま・ここ」に生く   

 「念々死去・念々新生」のわがいのち安々と生き安々と行かめ

* 北海道の久しい読者の高島信一さんから、湖の本の「著者」に、「一度北海道の寒さを体験させてあげたかった」と便りを戴いた。高島さん現地「今朝六時のつめたさは零下13.3度」近くの「十勝池田」では零下19.8度と。
 「ご多幸を心から念じ上げ」「久しいお礼までに」と。感謝。

* 弥栄中学一年生から同級だった内田豊子さんから母上の永眠を伝えてきた。よく存じ上げていた。小説にもそれとなく書いていた。手書きで、「お元気でい らっしゃいますか。くれぐれもお体お大切になさって下さい」とも。京都の友人たちにもたくさん心配を掛けてしまっている。
 今朝にも、やはり中学高校と同級だった西村明夫君から和菓子満載の見舞いを貰った。感謝。


* 十二月十一日 火

* 血圧99-45(88)  血糖値74  両眼から涙 洟水  体重65.2.kg   朝、粥二膳をくずし鮭で 菓子二つ 朝の服                薬 午前の仕事 午 生姜卵出汁で饂飩 ヤクルト 午の服薬 午後の仕事 眼 の不調のほか体調は、休薬延長のせいか少しくラクになっている感じ。 また、飲食の範囲が徐々に復し始めているのかも知れぬ。目に見えて、麺類、酒類が旧 に復しつつあり、塩辛いもの、味の濃いものが「苦み」を相殺してくれる感あり。眼だけは、まるで、よくならない。 晩、粥 蒲鉾・薄揚・百合根・葱の炊き 合わせ・ヨーグルト・菓子 晩の服薬 晩の仕事 

* 敦賀原発 運転認めず 直下活断層と「全員一致」規制委チームが判断し、「クロ」明確化、廃炉の可能性が出た。地形の不自然は「学生でも分かる」と。
 日本原子力 発電は「受け入れがたい」とし官房長官は「まだ途中段階」などと判断を保留している、が、規制委も政府も、約束通り厳格早急に決断して欲しい。
 「廃炉」には法的規定はないという。また運転停止は電力会社への「要請」とも謂っている、が、そんな抜け道だらけでは、何のための規制委であり、何のための調査なのか、政府なのか、が無意味に帰する。ここは厳正な専門チームの判断と政治決断がなければならぬ。
 「過去の審査は何だったのか」 今回の調査チームは、原電とは立場ちがうとして、「規制機関の姿勢」を強調しているのは正しい。大飯原発や志賀原発も即時稼働中止、稼働禁止にすべきである。

* 石原慎太郎は、選挙後に自民党と協力し改憲を実現すると公言。また北朝鮮の拉致問題など「戦争する」とつきつければ「解決することだ」とも。狂気に同 じい半ば耄碌、まさに田中真紀子の命名ただしい危険極まる「暴走老人」である。「戦争放棄」の誓いを形骸化しようとする事実上憲法違反の犯罪行為が目論ま れているのだ。徴兵制ももう彼らは目前の必至と身構えている。自民・維新は「集団的自衛権」「容認」をすでに公約した。国会や国民の論議が適正に行われね ばならぬこと。

* 都知事候補の宇都宮けんじ氏と猪瀬直樹氏の政見放映をじっと聞いた。宇都宮市の曰くは、すべて正論である。猪瀬直樹氏は、さすがに具体的な政策目標を 掲げて決断とスピードの実現を吐露していた。猪瀬直樹が石原の自民のと言わずに都民本位に目標の実現に向かってくれるのなら、目標にねらい定めて実行力の ありげなこの、ペンクラブでの僚友であった彼に道の戸を開いても良いのだが。難しいなあ。

* まだ写真をHPに持ち込める方法が見あたらない。新しい写真をいろいろ入れてみたいのに。

* 眼が涙で潤み、霞んでしまっている。十時だが、もう休もう。
 脚の痛い妻は近くの病院で対策してもらってきた。よかった。晴れやかに、晴れやかに。



* 十二月十二日 水

* 血圧135-65(62)  血糖値79  体重65.5.kg   朝葛餅 ヤクルト 朝の服薬 午前の仕事   眼は相変わらず不調 ヒアレインの点眼と温流水での洗眼、アイ浄綿での清拭で凌いでいるが 仕事を続けていると霞んでくる。抗癌剤休薬は今日で一応終え、 明日腫瘍内科でCTスキャンでの結果を聴き、場合により治療計画に変更を見るかも知れない。 耳、特に左耳に、過去に例がなく吃驚するほど乾性の耳垢が多 量に。右耳にはそれが無い。 午は、帆立貝入りの煮込み饂飩 ヨーグルト 午の服薬 午後仕事 晩は、おでん。  晩の服薬 入浴読書四冊 浴後体重 65.5kg   夜の仕事 温流水での洗眼とヒア悪辣に悪辣にあレイン点眼は、また清浄綿での清拭は、一時的だが、視野を明るくする。これに頼っている。やはり休薬延長の 効果は有ったと思う。

* 民主党は大飯原発活断層の不安や稼働停止に関して、また「クロ」と一致した敦賀原発にも、「完黙」している。政府と党との相変わらずの隠蔽や誤魔化しが見えてくる。地元民主党候補からの支援希望の電話でも、きっぱり支援・支持しないと答えた。
 自民党は、危ないものに触れるのを懼れ。誤魔化して、この選挙の最大争点であるにかかわらず、或いはだからこそか、原発政策に触れようとしない。不誠実な陰険体質は少しも変わらず、絶対に支持しない。
 未来の党は、当然のこととして原発にかかわるすべての危害や不安や政策の失敗は「自民党時代の迷惑極まるツケ」であると批判し今日段階でのとりあえず 「稼働全停止」からの政策転換を表明しているのは、数日前にもわたしが書いていた通りのことを公約したのであり、「10年先」を語るより「今・此処」に主 眼を置いて、緻密な工程を建てて行って欲しい。強く支持する。

* 原子力規制委が、政変次第で予断ゆるさずどんな裏切り行為に出ないとも謂えないのは、委員の顔ぶれがそれを懸念させる。断乎として国民は監視し場合に より抗議の行使に出たいもの。「原電」はもう規制委に対し敦賀原発への調査チームの一致した「クロ」判断に「科学的根拠を」などと申し入れているという。 「推進派」というより電力という超特権独占企業の利権に齧り付こうとする根深い貪欲がまだまだ募るだろう、阻止しなければならぬ。石川県知事の「及び腰」 の「クロ」判定へのケチの付け方なども、要は、規制委を野田総理がご都合にまかせ独断強行したのが悪いのである。現在の規制委はとにもかくにも厳格に人事 ともども改めねばならぬ。

* もう一つ、超級の金食い虫「もんじゅ」に、国民は廃止を根気よく要求すべきだ。ほとんどもはや「無意味」「無意義」の邪魔物でしかなくなっている。そんな気がする、専門家達の公正な判断をぜひ求めたい。

 ☆ フローベールに聴く  「紋切型辞典」小倉孝誠さんの訳に拠って。 
 「野心」は「常に『途方もない』あるいは『高貴な』と形容される」と。「高貴な野心」って、何?
 地方では「評判になる男はみんな」「野心家」と呼ばれる、と。謂えている。また「私は野心家じゃありませんよ!」と言えば「利己的あるいは無能」という「意味だ」とも。 なるほど。
 「唯心論」は「唯一の哲学体系」ですと。 これに対し、
 「唯物論」という「言葉口にするときは、一音節ずつ強調しながら嫌悪の情を示すべし」と。 フーン。
 「有名人」には「彼らの私生活上の欠点を指摘して、とにかくけなすべし」と。例えば「ミュッセはいつも泥酔した。バルザックは借金だらけだった。ユーゴーは吝嗇漢だった、なとなど」と。その
 『レミゼラブル』の「ユーゴー」は「偉大な詩人だが、政治に係わったのは残念なことだ!」ですと。
 「輸入」は「<国内取引>を蝕む害虫」だと。「自由貿易」への「抗議」とか。
 「指」について、「神の指はいたるところに潜り込む」とはねえ。「男神」にちがいない。
 「感じのいい」「容貌」は、「最も確かな通行証である」と。 うまいことを言う。
 「予算」は「けっして収支の釣り合いが取れない」そうです。 確かに。

* 上の引用は、むろん全部でなく、わたしの「読み」「批評感」に手強く触れてきたものに限ってある。全部を読もうという方は、ぜひ「岩波文庫」でお読み下さい、訳者小倉さんの「解説」もたいへん読みごたえがします。

* 湯に浸かりながら馬琴の「南総里見八犬伝」ツルゲーネフの「猟人日記」ゲーテの「親和力」トールキンの「指輪物語」を堪能した。浴室での本読みは当分四冊に絞ることに。湯気でいくらか眼はらくでも、それでも霞んでくる。

* 明日は午前に腫瘍内科の検査と診察、CTスキャンの検査結果と腫瘍(癌)マーカーの値変動如何についての説明があるだろう。抗癌剤があらためて処方されるのかどうか。
 午後は泌尿器科で排尿に付いての診察。たぶん、また一日仕事になりそう。どうあろうと動じないで受け入れ治療に立ち向かう。

* 湖の本114の表紙、本紙、あとづけを責了。残すは跋だが、これは総選挙の結末を見届けて末尾に付け足したい。


* 十二月十三日 木

* 血圧134-62(54)  血糖値72  体重65.1.kg    両眼の涙変わらず  朝、おでん ヨーグルト 聖路加腫瘍内科診察 CTスキャンの結果に癌の残存や転移などの異常全く認められないと。安堵。明日から、また服薬を再開。一月 へのスケジュールなど指示受ける。 薬局で二週間分二回、四週間分の処方抗癌剤を受けとる。 午、築地キャピテタルホテル和食「入舟」で鮓一人前、酒(妻 と分けて)一合 キスと小海老の天ぷら一つずつ。 午後二時半 泌尿器科受診 排尿のより快調を期して新しい処方薬が来年四月まで出る。処方薬受け取り新 富町から一路保谷まで。練馬高野台辺で夕焼けの富士山がみごとなシルエットに。 帰宅 今日は快晴だったのに光が眩しいということが無かった、涙は始終出 ていたが。 八千歩ちかく歩いていた。 晩は、おじや おでん 焼酎少し ヤクルト 甘味の菓子 晩の仕事少し 米倉涼子の「ドクターX」最終回を楽し む。 また仕事。

* 病院へ同行した妻から伝えたのだろう、CTスキャンの検査結果で、少なくも現在「癌巣」を示唆する所見が皆無であったのを、息子がいちばんに「よかった!」と妻のケイタイへメールを呉れていた。心配させたのだろう。よかったと思う。

* 「改憲論 実に愚か」と、92歳 元兵士の岩井忠正さんが。「今の憲法の重みを 若い人たち ぜひ気付いて」と、切々。

* 柏崎刈羽原発で、94年から2000年までの間に「燃料棒同士が接触しながら不用意な運転を続けていたことが、法律により今頃になって原子力規制委員 会に報告している。こういう不用意な事故の黙認から「溶融」「臨界爆発」の危険は間近い。こういう事態を原発はいつも抱え持っている、それでもこんな危険 限りないシロモノに日本は頼らねばならないか。断じて、ノー である。

* 「核のごみ」は、けっして、「いずれドーニデモ成るのだろう」などという漫々的な暢気な問題ではない、むしろ逃げ場のないドンツキまで押し込まれてい ながら、何の処分技術も処分場所も対策出来ていないのだ。なのに、選挙での「争点」「論点」に全く成っていない。危うきかな、危うきかな。原発が垂れ流す 危険きわまりない放射線量という名の糞尿に、列島中の国民が「原発病」で死命を制されるだろう。なんという愚かさよ。
 たまたま、優れた見解を述べている未知の作家の文章に、読者からの紹介で、触れ得た。こういう趣旨は広げねばならず、少し長いのが難ではあるが、読んで頂きたい。文中の「原告」「裁判」「陳述」等の表現の背後事情は知らない。

 ☆ 2012年12月7 日  原告 片山恭一
 私は文筆を生業とする者で、主に小説を書いています。学生のころから、核兵器を含め核エネルギーという人間の技術にたいして、心情的な嫌悪と反発を感じてはきましたが、かといって積極的に反対してきたわけではありません。
 原発の安全性についても、多くの日本の国民と同じように、福島の事故が起こるまでは、ほとんど無関心であったと言っていいのです。そのことを強く後悔しながら、いまあらためて核エネルギーについて考えようとしています。
 福島の事故が起こってまず思ったことは、私たちは歴史上はじめて、未来の者たちから憎まれ、蔑まれる先祖になったのかもしれない、ということです。
 私たちは子どものころから、先人たちを敬い、感謝することを教わってきました。そうした教えは、実感ともずれていなかったと思います。この暮しは、昔の人たちが連綿として培い、築き上げてきてくれたものの上に成り立っている。そう素直に信じることができたのです。
 しかしいまや、状況はすっかり変わってしまったと言うほかありません。未来の者たちが私たちにたいして抱く思いは、敬いでも感謝でもなく、「なんということをしてくれたのだ」という、恨みとも憎しみとも蔑みともつかない、やり場のないものではないでしょうか。
原子力発電は、ウラン鉱の採掘からウラン燃料の濃縮、発電に至るまで、すべての過程で多くの放射性廃棄物を産出します。
 高レベル放射性廃棄物の場合は、深度三百メートル以上の地層で数万年以上にわたって管理する必要があるとされています。これは「地層処分」と呼ばれ、現 時点では唯一の最終処分法と考えられているものです。ノルウェーでは、一億八千万年間動いてないことが確認されている花崗岩の岩盤に、深さ五百メートルの 地下施設を作って、最終処分場にしようという計画が進んでいるそうです。しかし地殻変動の活発な日本では、このような地下処分は不可能でしょう。そこで今 後、五十年から数百年にわたって暫定的に保存し、そのあいだに最終処分法を考えようという案が浮上しています。
 「最終処分」と言うのだそうです。放射性廃棄物の最終処分……どこかナチスのユダヤ人絶滅政策を連想させないでしょうか。「最終処分」というプロセスを 伴っていることが、すでに決定的に間違っているのではないか。そう考えてみるべきではないでしょうか。地中から取り出したウラン鉱石をエネルギーに利用 し、その廃棄物を最終処分する。それが地球を、あるいは世界そのものを最終処分することにならなければいいと思います。
 いったい誰が、どのような権利があって、こんなことをはじめたのでしょう。五十年から数百年にわたって暫定的に保存すると言っても、数百年先のことなど 誰にもわかりません。日本という国はなくなっているかもしれないし、人類だってどうなっているかわからない。ほとんど人間が生存するかぎり管理しつづけな ければならないものを、私たちは現在の自分たちの生活のためだけに作りつづけています。たった半世紀ほどのあいだに繁栄を謳歌した、地球上のごく一部の人 間が、この先数万年に及ぶ人間の未来を収奪しつつあると言っていいのではないでしょうか。
 いくらノーベル賞級の知性を結集したと言っても、私たちのやったこと、やりつづけていること、将来もやりつづけようとしていることは間違いなく浅知恵で す。人間は技術的に高度化すればするほど、深刻な浅はかさにとらわれていく。一流の頭脳をもった人たちが一生懸命にやっていることを集積すると、ほとんど 人間性を根底から否定してしまうほどの、巨大な愚かしさが立ち現れてしまう。そういう恐ろしさ、忌まわしさが人間の技術にはある気がします。
 数十年先、数百年先には、核にたいするテクノロジーは格段に進歩しているかもしれない。原子力発電所は安全に運転されるようになっているだろうし、核燃 料サイクルは確立されているだろう。「死の灰」を無毒化する方法も見つかっているかもしれない……そのように考えることが、まさに浅知恵なのです。
 本当の「知恵」とは、未来の者たちにより多くの選択肢をもたらすことではないでしょうか。核エネルギーの研究や開発をつづけるかどうかは、あくまで未来 の人たちが判断することです。これまでに生み出された放射性廃棄物を処理するためだけにも、彼らは否応なしに、核エネルギーの問題に取り組みつづけなけれ ばならない。このことをとっても、すでに私たちは、既定の未来を彼らに押しつけているのです。将来に不確かな期待をもつことは、さらに彼らの未来を収奪し つづけることになるでしょう。
 数万年以上にわたり貯蔵・保管しなければならない物質を生み出すような技術を、過去に人間はもったことがありません。この厄介な物質をどうするかという ことは、私たちがはじめて考えなければならないことです。ここに原子力発電という技術に伴う、大きな倫理的空白が生じているのです。この空白に付け入って はならないと思います。それはかならず大切な人間性を損ない、私たちをいかがわしい生き物にしてしまいます。
 最後に、私がたずさわっている文学の話をさせてもらいたいと思います。文学とは本来、人間の可能性を探るものです。人間はどのようなものでありうるか。小説とは、それをフィクションという設定のなかで問うものだと、私は考えています。
 核エネルギーとともにあることで、私たちは人間の可能性を探ることができなくなってしまいます。なぜなら核廃棄物という、自分たちに解決できないものを押しつけるというかたちで、私たちは数万年先の人間を規定し、彼らの自由を奪ってしまっているからです。
 少なくとも私のなかでは、核エネルギーの問題を放置して小説を善きつづけることは、自らの文学を否定してしまいかねない矛盾と欺隔を抱えることになります。これが原子力発電所の廃絶を求める裁判に、私が参加しているいちばん大きな理由です。
 自分はいかなる者でありうるか、ということをあらためて考えたいと思います。私たちが個人でなしうることは、一人の人間の身の丈を、それほど超えるものではありません。しかし私たちが「こうありたい」と望むことは、過去と未来を貫いて、人間全体を眺望しうるものです。
 そのような眺望をもって、自分の死後に生まれる者たちと、どのようにかかわるか、いかなる関係をもちうるか。それが経済や暮らしとはまったく次元を異にする、人間の自己理解の根本にある問題です。
 過去を健全に引き継ぎ、歪曲されない未来を受け渡していこうとすることによって、私は自らが望むべき者でありたいと思います。そして私たち一人一人の人間性を深刻に損なってしまう原子力発電からの速やかな離脱を、この裁判をとおして強く訴えたいと思います。
 以上、意見陳述を終わります。

 ☆ 一読者
 このように脱原発の立場を表明している所謂「売れる」本の作家は少ないことに、強い不満を抱いてきました。選挙が近づいているのですから、作家は社会に 発言する場所のない私のような市井の人間にない特権を生かして、積極的に原発問題について語るべきなのです。言論に生きる人間がこの問題について沈黙を守 ることは卑怯でしょう。
 今だからこそ、原発問題にかかわる本当の藝術作品が生まれなければ、日本の恥だろうと思います。

* 原発事故時、「毎時0.5ミリシーベルトで避難」と、国際基準より厳しい大筋合意が成されようとしているのは、大陸とはちがい日本列島のように狭小国家では余儀ない絶対基準であろう。とかくの横槍を許すまい。

* 「出生前診断」は、たとえ妊婦に動揺や懸念が生じようと、この列島を覆い尽くしてきた「核害による内部被曝」を思えば、乗り越えて実施せざるを得ないこれも「原発病」と向き合う際の、いまや覚悟・自覚の問題である。理解して欲しい。

* 民主党の激減予想は民意の罰で、当然。だが由々しいのは自民党の大勝ちなどあれば、三年前の民主党大勝の覿面の二の舞になる。そんなことをまた再現し て良いわけがない、自民党は、政権慣れしていなかった民主党よりも遙かに悪辣に高慢に憲法を改悪し日本国民をまたもや戦争・戦闘の巷へ押しやろうとするだ ろう、彼らは国民を家畜のように飼い慣らし好き放題に追い使う。いまから十数年前の小渕、森、小泉と続いた頃の自民党の陰険な国民支配・管理は、もし今度 自民政権が成ってしまえば、不幸きわまりないハメに陥ってしまう。投票判断を決めかねている半数近い有権者の善き判断をわたしは乞い願う。

* 案の定、いまの防衛大臣はボケている。北朝鮮のミサイル・衛星の不意打ちにも、中国機の尖閣領空侵犯にも、ノボーッとして情報収集の手抜かりにも、何 の対策も立てられない。予想を大きく超えた北朝鮮技術の優秀化への対応や防衛への、眦を決した姿勢もまったく見せ得ないまま、棒立ちのままだ。
 尖閣には滑走路の要る飛行場はつくれないが、ここでこそ、あの迷惑者のオスプレイに定時の離発着訓練場として、日米安保の実証をさせてはどうなのか。わ たしは以前にまだ半ばは言うてみるだけの発案を此処に書いたが、中国機の領空侵犯が頻回になれば一触即発の自衛戦闘になりかねぬ。そうなるぐらいならオス プレイの離発着というワキの手を本気で使ってみてはどうか。その前にああいう防衛大臣では何も出来まい。

* 米倉涼子主演の「ドクターX」は、近来も古来もなく図抜けた快作であった。視聴率の高かったのも当然と思う。
 しかし視聴率はさほどなくとも大河ドラマの「平清盛」も、作者の勉強が脚色に骨太によく働いて、ずいぶんと大河ドラマは見てきた中でも出色の本格を示し たものと評価する。視聴率は問題外で、ひとが大勢見るから良いわけでなく、ひとが大勢は見ないから良くないわけでも、けっしてない。見る人にもいろいろあ り、作行きにもいろいろある。世の中には読み物へ殺到する読者もいれば、鴎外、漱石、直哉、潤一郎を愛読する読者もいる。ひとの大勢寄りたかって行く安直 読み物には、往々、見るに堪えない下品なものが多すぎるが、それも或意味では防ぎようがない。富士山の姿をみれば分かる。裾野はあまりに広く、頂上は狭く て厳しい。どっちを好むかは、わたしは必ずしも「自由」だと思わない。「より優れた本格」への眼力を養うのは、或意味で生きて在るものの努力なのだから。

* 上の「一読者」さんは今こそ「原発小説」をと言われるが、すでに「事実は小説より」「奇」というより「劇」になっている。
 わたしが今、日夜書いてる小説は、まるで主題を異にしているが、何等かの縁でもし接近するなら、触れて書き表せるかも知れない。しかし、無理にそんなことはしたくない。

* もう眼がつぶれそうに疲れている。休もう。


* 十二月十四日 金

* 血圧122-65(60)  血糖値70   朝一番の裸眼視野、眼鏡の視野、クリヤーで往年に変わらず。残念だがものの十五分と続かない。両眼の涙変わらず 開眼に鈍い痛みも。瞑目が常習になってい るが、それでは暮らせない 体重65.4.kg    朝、カステラ二切 葛湯 ヤクルト 今朝から抗癌剤服用再開 朝の服薬 快排便 午前の仕事  午は、コーンフレーク 午の服薬 二時間昼寝 仕事 晩は、巻き鮓 カブラと鰤の蕪鮓 薄揚げ葱などの煮物 晩の服薬 晩の仕事 やはり眼のほかはさして 辛い体調ではない。 入浴読書五冊 浴後体重64.8kg   まずまずの一日。

  ☆  一読者より  脱原発が必要と確信する一主婦の考え
 私が脱原発をしなければならないと考える理由は、風前の灯火のこの国の民主主義を守りたいからです。国民の基本的人権と言論の自由をどうしても守りたいからです。
 福島のような人類史上最悪の大事故を起こした日本が、今後脱原発に向かって舵を切ることができなければ、原発政策を推進する過程で民主主義を放棄し、ファシズムに向かわざるを得ないでしょう。
 今回の選挙で、私が原発政策を最も重要な争点に考えるのは、ファシズム国家のもとで、家畜のように生きて殺される国民になりたくないからです。
 
 私はもともと少数意見の人間ですから、どうしてこの日本で原発を稼働することがファシズムに繋がるのかと、周囲の人間からは眼を丸くされるかもしれません。
 自民党や維新の憲法改正案がなぜこの時期に出てきたのか、これは周到に考えられた政策なのだと、個人的には感じています。
 
 福島の事故がなければ、日本の民主主義はここまで危機的にはなりませんでしたが、既に事故は起きてしまいました。
 チェルノブイリの早い段階で石棺に出来たたった一基の事故でさえ、ソ連という国家が崩壊したことを考えれば、福島の収束できない四基の事故がもたらす健 康被害と資産破壊は、今後凄まじい規模になるはずです。(三十年くらいの間に数千万人の死者と東北関東の大半の資産が消滅とまで言っている学者もいまし た。)
 ソ連は健康被害と補償を握りつぶす作戦に出て、恐るべき惨状で収拾のつかないベラルーシとウクライナを分離独立させました。ソ連のように分離独立させるほど広大な国土のない日本がとり得る道は何かと考えれば、答えは簡単です。
 国民を恐怖支配で黙らせればいいのです。ソ連と同じように健康被害を徹底的に隠蔽し、補償をしないで済む方法は、日本においてはそれしか考えられません。
 電力会社を守り原発を動かし続けたい利権政治家は、国民に真実を知らせず、国民が団結して脱原発デモなどしないように、国民が国家に逆らうことを阻止す るのです。現在新聞テレビ等の大手マスメディアはほぼ手中にしていますから、さらに秘密保全法などで締めつけ、インターネットの言論に厳しい規制をかけ、 どんどん逮捕者をだすのです。
 言論の自由や基本的人権を認めていたら、莫大な賠償金と避難を認めるしかなくなり、原発は稼働出来ません。将来福島で子どもを原発事故の影響で失った親 たちが、黙っているはずがないのですから、水俣病などとは比較にならぬ規模の告発と賠償訴訟になるのは必至です。そうさせないために、この災厄を絶好の チャンスとばかりに、ずっと以前から計画されて実行できなかった憲法改正案が持ち出されたとも考えられます。尖閣での中国の脅威や北朝鮮のミサイル(他国 では衛星と報道されているもの)が盛んに報道されていますが、それは今にはじまったことではありません。改正に向けての土壌づくり、世論誘導の一つではと 疑いたくなります。
 
 山本太郎さんのベラルーシ滞在時のツィッターを少し引用しますが、これを読んでも私のこの危惧が私ひとりの特別なものではないことがわかります。
 
  山本太郎俳優 @taro_tv  06 12 月 11
 @tsutomu_shida 山本太郎です!只今ベラルーシ、この国には声を上げる自由もありません。常に監視されている。今日本を変えなければ同じ状態になり得ます。次の選挙、市民の力を結集し、日本の未来を変えましょう!
 
  山本太郎俳優 @taro_tv  05 12 月 11
 事故から25年。貧しいこの国は原発を推進し海外に売電、外貨を獲ようとしている。今年大事故を起こしておきながら、未だ脱原発に踏み込めず、途上国に 対し、死の商人よろしく厚顔ぶりを世界に晒す国と比べれば奥ゆかしい方か? カメラを回していると邪魔が入る。どこからともなく警官が現れる
 
  山本太郎俳優 @taro_tv  05 12 月 11
  ベラルーシ、空港到着と共に感じた閉塞感は天気のせいでも、高圧的な空港職員の態度からでも、ただの気のせいでもなかった。17年間に及ぶ独裁政権は市民 の自由をとことん奪い、最近では 公共の場で五人以上たむろっていると罰金、逮捕。出会う人々が基本機嫌が悪い理由が理解できた。
 
 自民党や維新の掲げる憲法改正案の実態や問題点を大手のマスコミがとりあげないのは、すでにこの国には言論の自由が阻害されていることを示しています。
 身震いするほど恐ろしい憲法改悪が予定されています。原発政策の岐路にある今この時期に、なぜわざわざ憲法改正が大きなマニフェストとなるのか。それに は色々な要因があり、もちろんアメリカの思惑も大きいのでしょうけれど、将来にわたって原発を続けるために不可欠な政策だからと疑うべきです。
 自民党のこの改悪案の根底にあるのは、国民主権は邪魔、国民は使い捨ての駒であるという思想。福島の被災者は人間ではなくコストとして認識されているということです。徴兵制は、これから先百年は続く福島事故対応の作業員不足への有効な対策なのです。
 
 改正案は、憲法九条と基本的人権条項の廃止。徴兵制復活、国防軍設置、事実上の治安維持法を明言しています。
 自民党の片山さつき議員は自身のツイッターで自民党の憲法改正案に触れ、「天賦人権論をとるのは止めよう、というのが私たちの基本的考え方です」と書い ているそうです。頭の悪い私の理解では、これはつまり国民の人権を認めるのは間違っている。主権が国民にあってはならないということでしょう。
 さらに、自民党の憲法第99条改正案「緊急事態の宣言が発せられたときは、法律の定めるところにより、内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定するこ とができる」となっています。これはヒトラーの全体主義を確立した1933年の全権委任法と同じだそうです。極めて危険な改正で、戒厳令も可能ということ でしょう。原発事故の際に反対デモやビラ配りなど不可能に出来ます。国民よりも国のほうが偉いという考え方で、某弁護士の言を借りれば、「完全に歴史に逆 らうもの。立憲主義に対する挑戦だと言わざるを得ない」ものなのです。
 
 テレビマンの世界を棄てて、脱原発活動で有名な木下黄太さんのブログにこのようなメッセージがありました。
 

 ファシズムがスタートしはじめているなら、当面は、それを踏まえて、僕らは対応するしかありません。
 
「 1930 年代のドイツであれば、知識人が国外逃亡の準備を始める段階に達しています。日本で言えば、小林多喜二の『1928年3 月15日』の世界です。21世紀の日本は既に大きくファシズムに舵を切りました。しかし昔で言うならば特高が主たる敵ではありませんので、挑発に乗らず、 防衛意識を高く持ちましょう。現状は、日本に留まって闘うのか、国外に橋頭堡を得て自らの命を守りながら歩を進めるのかを考えなくてはいけない時期に来て います。」という書き込みが、僕のFacebookにもありましたが、僕も感覚は似ています。
 柔らかいファシズム時代が続いていたこの十年ほどの営みが、結局3.11. という悲劇的な事象と、その後に予想される放射能被害の恐怖の前に、「見ざる。言わざる。聞かざる。」が社会の共通感覚となり、その共通感覚がベースとな る以上、柔らかいファシズム→ファシズムそのものへ移行しつつある状況なのだろうと理解するべきと思っています。そして、こうした時代において、内側に対 しては、ある種の言論統制が作用していきますし、外患を演出することで、放射能被害という内憂の真実を忘れさせ、さきほどの共通感覚を強固にし、体制を強 固にする時代の幕開けも否定できない情勢です。そして、外患の演出は、最悪の場合は、開戦という事態を招くことになります。もちろん、徴兵ということも行 われる可能性もありますし、原発徴兵は、本当にリアルと認識しています。
 

 私は第二次大戦の三百万人以上の犠牲のうえに、唯一日本が得ることの出来たかけがえのない珠玉である現行憲法を守りたいと願っています。私もその子孫も 全体主義国家でなく、民主主義国家で生きていたいと思います。ですから、今この選挙で、脱原発に動かなければ、国民の首が絞められる事態になると非常に危 惧しています。
 以上、急いで書きましたので推敲不充分ですが、日経新聞では、自民公明で三百議席を超す勢いという危ない極みの予測ので、より広くお伝え下さればと、送らせていただきました。

* 満腔の賛同・共感から、此処に掲示させて頂く。

* 十一月の日録は、全部日付順に直し、およぶ限り誤記・誤変換も直して、十数年分一括保管のフォルダへ移管保存を終えた。

* 討ち入りのこと聴かざりき十四日  00.12.14
  いやいや、高倉健らの映画「四十七人の刺客」がもう始まる。妻に録画を頼んだ。眼が疲れに疲れているので、湯につかりたい。

* 映画のつまらなかったこと。

☆ フローベールに聴く  「紋切型辞典」小倉孝誠さんの訳に拠って。 
 「楽天家」は「愚か者と同じこと」と。
 「利己主義」の場合、「他人の利己主義には不平をかこち、自分の利己主義には気づかない」と。
 「理想」は「まったく無用なもの」と。
 「例外」は「『原則を裏づける』と言うべし。どうしてそうなのか、あえて説明しないこと」と。
 「憐憫」は「絶対に抱かないこと」と。
 「労働者」は「暴動を起こすときを除けば、常に実直」と。
 「猥褻」に関連し、「ギリシ語やラテン語から派生した科学用語にはすべて、何か猥褻なことが含まれている」と。わたしには分からないが。
 「綿」は「とりわけ耳に詰めると有益。」
 「笑い」は「常に『ホメロス的』」 つまり高笑い、哄笑。
 「ワルツ」には「憤慨すべし。「淫乱でみだらなダンスであり、年老いた女性だけが踊るべきである。」
 「パリの腕白小僧はとても機転が利く。「陽気なときは、あたし腕白小僧の真似をしたくなるの」と「けっして妻に言わせてはならない。」 「腕白小僧の真似をする」という表現には、隠語で女が淫行に耽るという意味があった。

* フローベールの『紋切型辞典』のおもしろいと思えた見出し語を、何度にも分けてかなりの数を紹介した。よほど面白く感じていたのであるが。みなさんは、如何。 



* 十二月十五日 土

* 血圧122-55(54)  血糖値84  朝 洗眼 蕪鮓少し カステラ二切 蜂蜜生姜ミルクティー 朝の服薬 午前の仕事 午、挽肉掛けて飯 揚げと小松菜の煮びたし ヤクルト 菓子 午の服薬  午後の仕事 晩は コーンフレーク 砂糖とミルクで 日本酒少し  ヨーグルト 晩の服薬

* 明日いよいよ総選挙。「卆・脱。反原発 即時原発稼働全停止 原発新設反対」「非正規雇用制の撤廃」「軍国化に絶対反対」「憲法改悪に絶対反対」の党を、ぜひぜひ支持し投票する。都知事においても同じ。
 どうか五十年を恣に日本丸を沈没させたあの自民党悪政時代を再現せぬよう、せめてそれだけは聡明な、クレバーな有権者諸氏にお願いしたい。断乎として自民党の政権を阻止しよう。

* 原子力規制委員会は、原発の「拡散予測」を、もうなんと四度繰り返して今回は「全原発」の予測を撤回訂正している。担当していたのは「孫請け社員  たったの一人」だった。「放射線量を過小評価」したり、「風上・風下を取り違え」たり、「雨量を10倍にも多く入力」したり、福島の教訓をまるで生かさ ず、お話にならないその上に、旧保安院も規制委も、データを「自ら検証したことは全く無かった」のである。無責任を通り越し、ダラケ切っている。これも超 保守と特権経済におもねった挙げ句の陰険なサボであったろう。許せない。

* 自民党内にも、かねて良識派と黙されてきた加藤紘一議員は安倍総裁らの甚だしい「右傾化に警鐘」を鳴らし、河野太郎議員ははやくから「脱原発絶対必要」と言い続けている。
 また特権電力の横暴を削ぐに絶対必要な「発送電分離」を公約で必要と明示しているのは民主党、日本未来の党、共産党、みんなの党、日本維新の会、社民党、公明党の七党だけ。自民党はじめその他群小党は全く賛同していない。、

* またまた、今度は東北電力の東通(ひがしどおり)原発内に活断層の「可能性高い」と規制委の専門家全員が「指摘」している。こういう危うさの真上で原 発安全神話は跳梁してきたのだ。「即時稼働全停止」は国土を危殆に瀕させまい第一義の「必要」なのだ。しかもなお東電は、「稼働率重視」を背景にした「福 島事故中間報告」を今頃に提出している。死んでも直らない儲け根性の露わさよ。「譲れない 即原発ゼロ」と69歳女性の投稿を新聞は載せている。国民の多 くが同感し、決意しているのだ。

* あの「3.11」の「後」に生きて。しかし生物絶滅へ核の影響は1000倍の速度と科学は指さしている。人間もやがては「消滅」かとも。それでも「核」を人間は弄くりまわすのか。

* もとよりわたしの関心事は他にもいっぱいあるが、「投票日の明日まで」は、上のような表明や批判や願望に徹したい。せめてはこのように発信しつづけたい。
 たとえ臨済和尚が大喝して、「人有って一句子(いっくす)の語(=例えば、「反原発」など)を拈起して、或は隠顕(おんけん)の中より出づれば、便即 (すなわ)ち疑い生じて、天を照らし地を照らし、傍家に尋問して、他(ま)た太(はなは)だ忙然たり。大丈夫児、祇麼(ひたす)ら主を論じ賊を論じ、是を 論じ非を論じ、色を論じ財を論じ、論説閑話して日を過ごすこと莫(なか)れ。」「但有(あらゆ)る声明文句(しょうみょうもんく)は、皆な是れ夢幻なり」 と言われようと、これら言語の奥において背いているとはすこしも感じていないのである。

 ☆ 秦 恒平様 
 『京のわる口』、ありがとうございました。とても面白く、拝読しています。
 お体、どうぞお大事に。   雑誌「ひとりから」経営編輯者 元筑摩書房 

* もっとも敬愛している編集者の原田奈翁雄さんから、いつものように雑誌が届き、添えられた一紙に編集長金住典子さん、バックアップの原田さんの文が載っていた。スキャンしてぜひ、紹介したい。

 ☆ 遅くなりましたが、「ひとりから」52号をお届け致します。
 今号には、「放射能の中で生きる」をお書きくださった佐藤幸子さんが理事長をつとめておられる福島診療所建設委員会NPO法人)が、住民の立場にたつ診 療所建設をめざして建設基金を募集するチラシと振替用紙を同封させていただきました。ご支援をよろしくお願いいたします。
 福島にお住まいの阿部一子さんから、『いま 子どもがあぶない 福島原発事故から子どもを守る「集団疎開裁判」』(本の泉社 本年一〇月一日刊・五七一円税抜き)をお送りいただきました。
 チェルノブイリ原発事故により九五万人の死亡者が出た原因やその後の子どもたちの放射線被害を研究してきた良心的な科学者や医師の知見は、空間線量が年間一ミリシーベルトを超える地域からは子どもたちを疎開させなければならないという基準だそうです。
 メルトダウン後の福島では、この基準を大きく上回る放射能を子どもたちが浴び続けているそうです。
 集団疎開裁判は、昨年六月に、安全な環境で教育を受ける権利の保障を定めた憲法二六条を梃子に、危険な環境で教育活動をしてはならないとの仮処分命令を求めて申立てられました。
 野田政権が、安全基準を年間二〇ミリシーベルトに引き上げた後、原発事故の嘘の収束宣言をした同じ日に、申立を却下する一審判決が出され、目下、仙台高等裁判所で、即時抗告審の審尋中です(申立書・判決等の情報は、福島集団疎開裁判のプログで見ることができます)。
 今年の九月、福島県の子どもたちの三回目の甲状腺検査の決果の発表では、六〜一五歳女子の約五五%、男女合わせて約四三%に異常が見つかったそうです。
 この裁判にも、佐藤幸子さんが代表をつとめている「子どもたちを放射能から守る福島ネットワーク」が積極的にかかわっています。
 広島で被爆された医師の肥田舜太郎さんは、原子炉から一六〇キロ圏内では、日々放射される放射能によりみな被爆する。日本中をぐるりと取り囲んでいる五 四基の原子炉の放射能から逃れられる者はいない (沖縄県は除外されるようです)と言っておられます(『アヒンサー13号』問い合わせ先 〇四二ニ・五 一・七六〇二)。
 間もなく衆議院議員選挙です。今度の選挙では政党や政治家の思想が明確に現われています。脱原発と憲法九条の改悪阻止とは、国民のいのちを優先する民主的な政治・社会を求める視点からは深く結びあっていると思います。
 主権者にそれを見分ける力があるか、主権者が試される選挙だと思います。  金住典子

 ☆ 総選挙が告示されて二日目の十二月六日、朝日朝刊は、
  一面トップで、「自民、単独過半数の勢い」と報じました。
  まさか! 私は目を疑わずにはいられませんでした。日本の有権者は、そこまでほんとに愚かなのだろうか。
  自民兜は、何よりも改憲して戦争のできる国にすること訴えています。原発も動かしつづけるというのです。石原、橋下の維新と足並みを揃えて。
  原発事故は、戦後日本の歩んで来た道に、決定的な警告を発しているのです。
 大日本帝国の敗北は、アジア諸国への侵略戦争を導いた、天皇制軍国主義に対して下された、全世界の決定的審判でした。
 原爆・沖縄……数知れぬ戦死者、戦争被害者の悲しみ・苦しみは世代を超えて引きつがれています。
 十六万もの福島県民が、いま現在、先祖伝来の家を奪われ、土地を追われています。
 十六日の投票結果が、果たして朝日の予測通りにでもなったら、私はどうしたらいいのか、いたたまれぬ思いです。
 ここで一挙に光明を引き出す方策があるのだがと、私は祈る思いでいます。
 大部分の選挙区で候補を立てている共産党が、彼らの一貫した主張である反原発、反改憲を貫くために、日本未来の党、社民党候補の立っている選挙区で、当 選には及ばないこと明らかな候補を辞退させて、両党の応援に回る。万一共産党がそんな画期的な英断をしてくれるなら、朝日が言うような風向きを一挙に変え るほどの効果を生むはずだ。まさに歴史的なサプライズになること疑いない。共産党も生き生きと生まれ変わり、多くの主権者の信望を得られるはずです。
 ご同感くださるならば、地域の、中央の共産党に、あなたの声を早急に伝えていただけませんか。
 心からのお願いです。    原田奈翁雄    二〇一二年一二月一O日

* 共産党の政策を是認の一方で、党の根底にある鈍感で独善なエゴイズム一辺倒の共産党を、わたしが非難し拒絶してきたことは、この十数年の日録中にいくどとなく繰り返し吐露されてある。劇的な変化はたとえ得られなくても原田さんの提言には理がある。

* 午後にも晩にも、わくわくしながら書きさしの小説を書き進んでいた。なにかしら取り戻しつつあるが……ではでは、さて、この小説、湖の本ででもほんと うに発表できるのだろうか。罵詈に包まれるのではないか。ま、それはいいとしておく、今は。初校が成らねば話にもならないのだから。

* 眼は、かすかに痛むほど霞んで、機械の字を読むのも二度三度目をしかめ瞬きしないと浮かんでこない。もう休むしかない。妻のピアノの稽古がたどたどしくまだ聞こえるのは八時にもなっていないらしい。
 明日の投票のために、建日子がひとばん泊まって行くという電話が来ていた。妻は嬉しそう、わたしも心嬉しい。棄権されてはいかんのだ。一緒に投票場へ行けそうだ。嗚呼、期待したい!

 ☆ 尾張の鳶は 
 フランスから戻り、明日はいよいよ選挙投票日という日本の現実の日常の中にいます。
 笹子トンネルの崩落事故など向こうで聞きました。
 今日はアメリカの小学校での悲惨な事件。
 家ではやはり選挙に関して原発のことが話題になります。
 この時期のフランスは雨や雪が多く春夏の雰囲気とはまた格段に異なった感がありました。
改めて書きます。
 目のことなど大変でしょうが、どうぞ元気に元気にいてください。

* 尾張の鳶は、世界をとぶ。元気なのがなによりです。



* 十二月十六日 日

* 衆議院選挙 都知事選挙 最高裁判事適否投票 行わる。 午前、建日子もともに投票を済ませた。投票所、かつてなく多数の有権者の二列行列が長く続いていたのに、一驚。
 投票のあと建日子は「何でもお宝鑑定団」を半ばまで観て、愛車ボルボに乗って仕事の方へ戻っていった。「投票してくれて、ありがとう」と見送った。
 玄関正面に松篁さんのリトグラフ「雪ー鷺」を、掛けかえた。気稟の清質に満ちた名品。正月の建日子誕生日の祝いにやると告げてある。美しい佳いものに身近に触れられるのは、創作者には有難い大事なことである。

* 選挙結果。「こういう国民」と、もう暫くは付き合わねばならないのだ。
 わたしは沈黙する。恋は成らなかった。 
   あはれともいふべきひとは思ほえで身のいたづらになりぬべきかな   謙徳公 

* 血圧124-62(57)  血糖値86  体重64.7kg   朝 洗眼   中華強飯一つ 揚げ小松菜煮びたし 葛小餅 朝服薬   快排便  総選挙等の投票 午 蕎麦 午服薬 快排便二度目  食べ物の旨い不味いに係わらず口に入る量、種別がやや増えているか 午後仕事  晩はなにを食したやら 晩の服薬 入浴 八時すぐに選挙速報が出て、そのまま機械の前で晩の仕事。  

* 第二十五回京都美術文化賞受賞記念展のオープニング式典の案内が届いた。一月十八日。まだまだ動けそうに想われない、欠席やむを得ぬ。

* 新年、俳優座で山田太一作「心細い日のサングラス」の招待が来ており、昴劇団公演の「イノセント・ピープル」案内も届いている。後者は、原爆水爆製造に係わっていた人たちのドラマだと。両方とも見に行く気でいる。
 一月の初春歌舞伎も、昼夜分けて楽しみにしている。友人片岡我當の「翁」を演じる「壽式三番叟」で新年が開ける。有難し。二つめに「車引」 三つめは幸四郎と福助の「戻橋」があり、切りに、吉右衛門をはじめ友右衛門、芝雀、歌六、東蔵らの「傾城反魂香」。
 夜の部は幸四郎、福助、梅玉の「逆櫓」で幕が開き、團十郎、吉右衛門、芝雀で「仮名手本忠臣蔵 祇園一力茶屋の場」が続き、大喜利は、狂言物の「釣女」を三津五郎、又五郎、七之助らで。
 やはり歌舞伎はこうして演目や役者の名を書き写しているだけで身も心も動いてくる。亡き勘三郎らが教えてくれた冥利である。

* 機械のそばには、「臨済録」「参考源平盛衰記」「白楽天詩集」菅直人の「東電福島原発事故 総理大臣として考えたこと」(幻冬舎新書)らを、いつでも読むため置いてある。書きさしの小説の参考にちょっと名をあげられぬ面白い文献も置いてある。
 寝室には、堅い本として「和泉式部集評釈 正集編」岩波文庫「和泉式部集」谷崎潤一郎「文章読本」折口信夫「日本藝能論攷」「古今著聞集」猛さん「能の恋」衛さん「八犬伝の世界」ゲーテ「イタリア紀行」チェーホフ「妻クニッペルへの書簡集」「丹後の旅」そしてバグワン、
 小説は、「南総里見八犬伝」「ゲーテ「親和力」ツルゲーネフ「猟人日記」トールキン「指輪物語」辻邦生「夏の砦」、
 いずれもことさら大部の作を好んで、日かずもかけて、無心無欲に楽しんでいる。苦労して読むのでなく、好きだから楽しんで読める。有難い。


* 十二月十七日 月

* 血圧130-65(67)  血糖値77  体重64.9kg   朝 洗眼朝食 朝の服薬 8:12のバスで 聖路加へ 九時半に着き 検査十時に終え しかも糖尿病と感染症両科診察が終わって支払いもしたたのが午後三 時、それから一時間かけて院外処方の薬受け取り 銀座「ライオン」で、ビールと、六種類ソーセージ フライドポテト よく腹に入ったもの。  睡魔にまかせて銀座一丁目から保谷まで。タクシーで帰宅 晩の服薬 晩の仕事。 感染症内科外来で待機中、腫瘍内科の名取先生に声かけられ暫時歓談。一歳 の赤ちゃんのあることなど。正月休み中の「電話診察」を忘れないようにと。

 ☆ 湖へ
 夏に御連絡とてから、ずい分季節が過ぎてしまいました。治療の御様子や血圧、血糖、体重にハラハラしながら、日々は「私語の刻」でお近くに感じていました。
 目のことも丁度注意情報が届いたところだったので、御連絡しようと思ったなか、ちゃんとすぐにお声かけ下さる方がいらして、遠くホッとしつつ心配ばかりでした。お役に立てず申し訳ないと思っています。
 私の今年は、こういう時期なのでしょうが、それこそ次々に……という有様で、仕事も私生活も予想外の展開になることばかり…仕方ないと、ただただ一日一 日を考えすぎずに過ごしてきました。ようやく暮れになり、”無事”という言葉の意味を考えつつ、新しき年がすぐ近いことに驚いています。
 秋頃から、自分が求めた品で、温められたり、ホッとしたりすると、湖にもお届けしたいと買っていた品が、気がつけばクリスマス近くになっていましたが、お届け致しますので御笑納下さい。
 今年の冬は寒さの駆け足が速く、例年より冷えるような気がします。薬草の臭さはありますが、電子レンジ1分半ほど温めると、肩やお腹にのせて温かく過ごせると思います。お試し下さい。
 あと少しでお誕生日ですね。今年の大切な日にお元気でいらして下さることに、心から感謝します。
 転移の検査結果にホッと一息。召し上がることの不自由さ、目のこととあると思いますが、どうぞ日々を遠く祈る読者や私のために、一日一日を元気でお過ごし下さい、祈ってます。
 メールがおっくうになっています。
 私も今年は目の調子が悪く、仕事のPCでもウンザリなので、自宅ではできるだけPCを使わないようにしています。そんなことで、まとまりのないお手紙ですが、お許し下さい。 
 湖のこと、想っています。どうぞ、お元気で。どうか、お元気で、湖。
 またお手紙書きます。   珠  12月15日
   * お誕生祝は別便で送ります。(この便の)これは、ためこんでいた品……まとまりのない 珠 です。 

* 優しい心づかいで、いわゆる古来「消息」文の温かい佳い雰囲気に包まれた。ありがとう、珠。プリシラ・アーンのティスクも、ユーモラスなもて遊びものも、温まる薬湯も、ありがとう。
 もう今年の早くに御見舞に戴いた名菓の包装に、華奢に竹ひごを磨いて編んでしかも上部は竹のまま編みもせずひゅうっと伸びた。これが中身何にも無くなっ てからカラのまま棚にかざってみると、なまじの壺や花よりも飄々と美しくとても見栄えがするので、ずうっと棚の中央、掛けた繪のましたに主役然と今もまさ に「かるみ」の威儀を正している。この人は、こういうモノをさらりと呉れる人。

* 上の竹籠も、見立てで他を圧して生きているが、もう一つ、わたしの目で見て佳いぞと惚れ込んでいる水指ようの壺がある。何あろう和歌山の梅干しを壺の まま下さった或る画家からのもらいものだが、壺がすこぶる軽妙に安定していて、塗りの蓋を奢れば、何の何物という由緒来歴とは無縁でも、「わたし」の愛蔵 した壺として生きて行けるのではないかなどと自惚れてみたくもなる。それほど、さらりとサマになって美しい壺が来ていたのである。梅干しは美味しく戴いた その空いた壺をわたしは、別の棚に干支の小物などとわざと一緒に飾っている。
 竹といい壺といい「見立て」れば、思いがけぬ佳い一画を家のうちに創り出せる、茶の湯とは、こういうこころざしを生かした藝であるかと想われる。

* 早くからの寒がりようを漏れ聞いた妻の妹が、手編みの襟巻きを創って贈ってきてくれた。詩人で画家でもある義妹の手仕事は、とてもしっくり首筋を巻い て温かく、嬉しがっている。先頃の妻等の叔母の葬儀で、ほんとうに久しぶり久しぶりに会った。お互いに年をとったなあと想いつつ、往年の、結婚前後の、ま た妻が出産の頃の思い出が蘇る。元気でいて欲しい。

* メールボックス 数十の不良メールだけ。みな一斉に削除。わたしもメールから否応なく遠のいている。欠かさず点検はするが、まっとうな嬉しいメールは、たまに来るだけ。ひとつにはわたしが返信しないで「私語の刻」で返礼しているからだろう。 

* さすがに疲れている。「ライオン」では、やけ食いのようなもの。ソーセイジを注文したら「食べられますか、お腹いっぱいですよ」とウェートレスに案じ られたが、この店では徳に気に入りの「フライドポテト」まで食べた。ビールはまだ馴染みを復旧出来ていないので小さいジョッキでよかったが、お店は遠慮無 く中ジョッキを持ってきた。これは三分一ほど残してきた。
 旨くなくても、せいぜい食べるようにと腹を括っている。食べられる種類を自然に増やして行く。


* 十二月十八日 火

* 血圧136-63(62)  血糖値83  体重64.8kg   朝起きの寝床で山下宏明さんの研究書、辻邦生さんの小説読む 朝食 鰈干物、蕪鮓少し 梅干茶漬一膳 朝の服薬 快排便 便通あれば排尿も途切れず。尿はとぎれても出し切るようにしている。  午は、中華蕎麦がうまく喉を通らず少し吐いた 午の服薬 糖尿病の午注射3単位が昨日の診察でよしになっていた。 脂肪が減って寒いでしょう風邪を引かぬ よう言われてきた。 また排便 午後の仕事 晩は鰈半身、卵かけ飯 葛湯 焼酎すこし 晩の服薬 晩の仕事 

* 今回選挙で自民党は議席数に置いて過半数を大きく超えて圧勝したと見えるが、これが小選挙区制の大弊害であろう、全有権者でみると、小選挙区で自民党 に投票したのは僅か24%、比例代表ではたった15%。「民意」はごく薄い、しかも議席数は圧倒多数という不条理を現じた。
 だが民主党の絶対多数だったのが僅か64議席ぐらいに激減したのは、民意の憎しみが徹底反映した。野田佳彦総理のおれは「総理大臣だから」という権限を 無視した増長慢で、公約に反した消費増税を自公を抱き込み民意を徹底無視して信も問わず強行した罰が厳重に下されたので、彼はなんらものごとを正規に決め る能力を持たなかった落第総理の証明である。民主党は、結党精神に立ち返りもっともっと謙虚に誠実に政党の足場を思い知るべきである。
 
* 野田の前の菅直人前総理は、選挙区で破れ比例区で命綱に縋った形になったが、これには菅のの面目躍如の理由があった。彼の選挙区には彼を支持してきた 大企業の組合があったが、この企業が菅の「脱原発 ゼロ原発」の信念に拒否反応した。傘下には原発関連企業もかかえていたのだ。
 これに対し菅直人は、総理大臣としてつぶさに原発の非情・未熟・危険に立ち向かってきた実感と信条において、落選は覚悟しても思いは変えないと支持を求めて変節しなかった。そして苦戦し苦闘して利あらず落選した。
 この実話を、わたしは、十数年前から得難い政治家、ステーツマンシップをもった政治家として一貫菅直人を応援してきた身で、嬉しく頼もしく思う。政治家は斯く在りたい。

* もう一人、田中真紀子が落選した。比例区で救われることもなかった。わたしは彼女を菅直人の場合と同じく、十数年来政治家として支援の気持ちを書き続 けてきた。彼女にも立派なステーツマンシップが在る。新潟の田舎感覚は、地元に利益をもたらしてくれぬなどという理由から久しい支持を投げ捨てたらしい、 「こういう選挙民」は日本に政治家を必要とする治世も判断ももたない。結果的に利権をあさる偽の政治家ばかりを国会へ送り込む。まさに、情けない。

* そんな一方ではあの野田の愚かな限りの戯言「収束宣言」から一年、原発作業は極度に暗転し、現場作業の「危険手当」もカットしてしまい、「人が集まら ない」でいる。福島第一原発は、爆発以来の危害の実は何一つ「収束」していないどころか「放置」のままなお突発災害の危険性はほとんど排除できていない。 まして「廃炉」以外にないその廃炉には夥しい今後の年数と対応とが、人も費用も莫大に投じられねば一歩も前へ進めない。
 政治家も、だれもかも日本人の全員が、「核のごみ 核糞尿」の最終処理策を持っていない。しかも仮便所の溜め壺がほぼ満杯に近づいて、その汲み取りの方 便も何一つ持てていない。自民党も民主党も他党も、それを話題にされると大急ぎで無関係な別ごとをしゃべり出す。「民意」はここへこれから意識と自覚を集 中して政権や国会を追及せねばならぬ。

* 今度の湖の本114の「あとがき」の頭の方で書いたことだから、此処に重ねるのもどうかとは思うが、野田前総理に顕著であった「権」の大誤解に触れて、こんな歴史的な事実・真実をもう一度も二度も、人に、わけて政治家に、分かって欲しい。そのまま書き写す。

 ☆ 「権」の意味
  * 明けの夢で「権」一字を吟味していた。権力、権利、権勢、権門、それに権現(ごんげん)というのも。権(ごん)中納言藤原定家という「権」もある。権妻(ごんさい)というのもある。政権、覇権、選挙権、権柄(けんぺい)などもある。
 「権」は、本当の本来ではなく仮に表された、仮に現れた意義を持っている。定員は二人とか三人とか限定されているのに、追加されたので定家卿と限らず大納言や中納言でなく権(ごんの)大納言・中納言たちが存在した。
 「権」は、わかりよくいえば神のようなものの「代わり」「代理」「準(なぞら)えたもの」「授けられ与えられたもの」の意義を体しているに過ぎない。帯しているに過ぎない。「ほんものではない」のだ。
 それを「ほんもの」の気で、生得の持ち物のように、権力、政権、権勢をふりまわす、それが人間の偽物づくしの歴史だ。仮に預かっているものに過ぎないの に、権柄をふりまわしたがる。権現様と祭られていても「仮に現れた神・佛」で、本地は他に超越的におわすという理解なのである。
 「権」は振り回すものでなく、謙遜に預かっているだけ。政治家や会長・社長の類がいちばんモノを心得ていないけれど、いずれ代わりが出来てくる。「権」という制度は、心得ていれば人間の智慧でうまれたとも謂える。  2011.01.13

* あの野田が、口を開けば「わたしは総理大臣、わたしが決める、判断する」と、「民意」を蹴飛ばし続けて政治を大きく誤ったのは、「権」とは預かりモノ という謙虚を微塵も持たず、大きな顔で栄達の限りとばかり心得、無反省に上から与え遣わすかのように暴政・悪政を連発し、今回天罰を蒙った。「責任をとる とは、自分の場合、議員辞職すること」と言っていたのも、平然と反古にし、「党代表」を自認しただけとは、さりとも情けない男である。

* 湖の本114の発送用意にかかった。本は正月七日に出来て来る。

 ☆ 拝啓
 暑かった夏から、秋を抜いていきなり真冬になったような昨今ですが、ご体調はいかがでございましょうか。都心にくらべて、立川は一段と寒さ厳しく、先日は九州では見られない十センチを超える霜柱を見ました。
 さて、先般は、「湖の本」113 並びに平凡社ライブラリー版『京のわる口』を賜りまして、ありがとうございました。御礼がすっかり遅くなり、失礼いたしました。
 同封のファイルと栞は、このたび(国文学研究資料)館のグッズとして製作したものです。お使いいただければ幸いです。
 良き新年をお迎えになられるよう、ご健康を心からお祈り申し上げます。 敬具 十二月十四日
    秦 恒平先生       館長 九大名誉教授

* 数を戴いた美しいファイルも栞もすぐに役立つもので。一時に読む本の数多さから、栞はいつも探し回る必需品だし、セルロイドの軽便ファイルも、なにしろ病院・医院関連の刷り物の取り纏めや保管にいつも苦心しているもので、とても有難い。
 ありがとう存じます。

*  小説が進んで行く。どうも読者はわたしひとりで良いという作になります。九時半、目が霞んできて休むしかないようだ。



* 十二月十九日 水

* 血圧130-56(65)  血糖値76  体重64.5kg   朝  洗眼 点眼 体重64.5kg  朝食白粥一膳と梅干、奈良漬 茶菓 朝服薬 韓流歴史ドラマ観て 午前仕事 午 肉饅 ししゃも 午の服薬 午後小説 目、疲れる ともすると瞑目して 眠ったまま歩くので危ない。 洗眼してくる 珍しく空腹感に似た腹空虚感。 晩は、鴨鍋 飯一膳 干し柿 晩の服薬 入浴読書五冊 浴後 65.6kg   晩の仕事 希に胸が押さえられる感じ 重い荷物の時、急ぎ歩きの時。
 
* 「騒壇余人」の印を、小松の井口さんに頂戴しているのを、もすこし大びらに用いたい。
 今ひとつ念頭でうそぶいている私号がある。「有即斎」です、今書いているフィクションの中で使っていて、その「うそくさい」のが気に入っています。「退 蔵」という二字をときどき使っている。新井白石に教わった。肩書きを取り払い平服で生きるといった意味と理会している。裏千家から高校卒業時に希望して受 けた茶名が、「宗遠」。これも気に入っている。
 「退蔵院有即斎宗遠居士」と死後に坊さんが呼んでくれるかどうか、何にしても自己「批評」と心得ています。                                     
 ☆ お元気ですか、みづうみ。
  今年もお誕生日のお祝いに「めで鯛」を送らせていただきます。当日は歌舞伎鑑賞にお出かけと思いまして、明日の二十日到着予定でございま す。お薬の影響で美味しく召し上がっていただけるかどうかわかりませんが、眼で楽しんでいただければ幸いです。ささやかなわたくしのお祝いの気持です。ご 笑納くださいませ。
 
 じつは、最悪の選挙結果の失望から立ち直るのに少々時間がかかりました。
 私自身のために今回の選挙について少し書いておきます。みづうみのおっしゃる「恋の実らなかった」選挙については色々なことが考えられます。
  まず、みづうみのご指摘のように「小選挙区」という方式の問題が第一。先進国でこのような民意の反映されないシステムを導入しているのは日 本だけでしょう。比例区の自民党の得票数は、全有権者のたった15パーセント、小選挙区で24パーセントですから、それが議席の過半数を上越す圧勝とな り、憲法改悪まで強行可能になりかねぬ大勢力になるのは、明らかにおかしいのです。
  自公の勝利することは予想していましたが、ここまでの圧勝、個人的にはあり得ないと思いたいです。少なくとも私の出かけた投票所では長い列が出来ていて、これは今までにない現象でした。投票率、ほんとうに戦後最低だったのでしょうか。
 相変わらず暗い話でごめんなさい。
 でも、みづうみのおっしゃるように、こんな悪夢「なんじゃい」と思うようになりました。人間の歴史はこういうことを繰り返してきたのです。それでも私は 歴史の渦に巻き込まれていく現在進行形の恐怖の中にいます。しかし座して死を待つ気ありません。最後まできちんと「投票」して、何かの形で抵抗しながら滅 びてまいりたいと願っています。まだ来年の参議院選挙もあります。希望はあります。今からひとりでも多くの国民が真実に目覚めて抵抗するのです。巻き返す のです。前に進むのです。もし今国民が抵抗しなければ日本は終わってしまいますから。日本は震災、原発事故、そして軍事国家を目指す改憲政権の三重苦の中 にいます。
 段々とインターネットの規制もはじまりますでしょう。言論は真綿で首を絞められていきます。日本人は第二の満蒙開拓団になってはいけません。若いひとたちは逃げましょう。逃がしましょう。
 以上、わたくしの選挙総括でした。
 みづうみ、お元気ですか。楽しい誕生日ウィークお過ごしくださいませ。  小春  病む人の病む人をとふ小春かな  子規

* やはり読者が知らせてくれたが、選挙翌日からは、インターネット上では等ひょの処理に不正を疑うコメントが、山のように出てきたいるとか。今も増え続け、「選挙不正」で検索すると五百万件以上ヒットするという。
 またこんなツイートも見つかる。
 「東京都の衆議院選と都事選、投票数に異常なくいちがい。<同日選>なのに都知事選だけ投票? 都知事選投票率62.60% 衆院選投票率 53.27%? 投票所で120万人が都知事選だけに投票したなんて、変すぎる。5人に一人が、衆議院選挙はせず、都知事選にだけ投票? 投票所では担当 者が順に選挙毎に投票用紙を手渡し、衆院選だけ低くなる確率は、ゼロ」

* 数字を確かめていないが、でたらめな数字ではあるまい、とすると摩訶不思議。

 ☆ 誕生日のお祝いを申し上げます。
 原発や政治のあり方についての主張に100%賛同しながら読んでいました。
 選挙は、マスコミの報道などから、もしかしたらと危惧していた結果になってしまいました。有権者は本当に自公政権を望んでいたのでしょうか。理解できません。
 それはともかく秦さんが一日でも早く山を無事に越えられることを希いまた信じています。
 気持ちばかりのものを送りましたのでお口に合ったら召し上がってください。21日に届く予定です。 吉備ひと

* ありがとう存じます。お大切に佳い新年をお迎え下さい。

 ☆ 秦 恒平先生
 師走も残り僅かとなり、寒さが一段と厳しくなりましたが、ご体調はいかがで いらっしゃいますか。
 先生の喜寿のお祝いに、と申すには、とてもささやかでございますけれども、私の郷里 日本海の魚の一夜干しを、と存じ、頼んでおきましたところ、十九日発送、二十日にお届け出来る、と連絡が入りました。冷凍便でのお届けになります由。 どうぞお納めくださいませ。
 干物の中に、ふぐの一夜干しも入っているかと存じます。ふぐは ふく(福)に通じると、私の田舎では縁起のよい魚とされております。ほんの少々のふくの お届けでございますけれども、新しい年には 先生ご夫妻、お子様方に、福がいっぱい訪れますように、と願いつつ、喜寿お祝いのご挨拶申し上げます。 かし こ   十二月十八日   『京都、上げたり下げたり』の編集者 読者

* 優しく行き届いたお手紙に胸の内温かに。ありがとう存じます。 

* 新年の七日には新刊本が出来る。発送用意は年内にと。

* 明日は、中野で、クリスマスらしいミュージカルを楽しく観に聴きに行く。松本紀保が出演する。
 明後日の七十七歳には、国立大劇場で、中村吉右衛門はじめ播磨屋一門を芯に、面白い歌舞伎らしい歌舞伎を気持ちよく楽しんでくる。
 新歌舞伎座のこけら落とし興行のメドが立ったようだ、人気沸騰か。


* 十二月二十日 木
* 血圧132-67(65)  血糖値80  体重64.5kg   朝  洗眼 点眼  朝食  玄米粥 烏賊刺し R1ヨーグルト 朝の服薬 中野サンプラザに 松本紀保らのコンサート形式クリスマス・ミュージカルを楽しむ 昼、サンドイッチ 劇場 で小排便 帰宅 晩は、「めで鯛」の姿焼 「福=ふぐ」 の一夜干し 麩の清まし汁 柿大根膾 飯一膳 日本酒 ヤクルト クリームコロッケ二つ 晩の服 薬 洗眼 晩の仕事

* 何と言おうが原発を稼働すれば否応なく屎尿なみの危険放射線から「ごみ」が残り、その永久安全確保の保存は「絶対」要件になる。厳重装備のうえ、地下 の想像以上深くに他国ではまさに埋葬しているが、地震国日本にそんな安全な地底はとても確保できないだろう。暫定保存の場所すらも、住民感情からも広さ・ 深さの確保も見通しは立たない。
 原発稼働・推進の自民・公明連立政権は、先ず、これに明確に答える義務がある。これはもう沖縄の飛行場移転困難の何十倍する絶対要件でかつ可能性のゼロ に等しい難題である。原発を無思慮に推進してきた連中は、責任をもってこれに真っ先に答えよと国民は自民政権にも政権に安全神話で阿諛した科学者たちにも 突きつけたい。原子力規制委も、これに回答を生み出して欲しい。
 原発問題の先行きにこの決定的な難問を政権に対し肉薄する気組みで突きつけたいし、突きつけねばならない。一原発の「廃炉」にも何十年かかり新開発の技術をぜひ要するという。
 その有様で、どう原発を稼働し続けるのか、抜け道無しのドンツキ袋小路にとびこむだけだ、しかも放射能の危険は列島各地を蔽って人体への内部被曝・蓄積 は不可避に蔓延し浸潤するだろう。それはもう、あなたの問題だ、家族子弟の問題だ、自分たちだけは切り抜けられるといった生やさしいものではなく、無差別 絨毯爆撃に同じ目に遭いつつあることを、あなたもあなたもあなたも覚悟しなくてはならない。
 至近の一大危険は、東電が、作業員の待遇を切り下げ切り捨てて、危害再発防護の現場に必要な人員が減り続けていること。非人道でしかもおそろしい現場放 棄の姿勢が露骨になってきた。危険は減るどころか増している。それは、あなたには及ばない危険なのか。とんでもないと知らねばならぬ。

* 無駄金食いの最たる「もんじゅ」はまるまる働き無しで年々に国家予算を食い荒らしながら、点検漏れはじつに9700件に達し、理事長は「ミスは出るもの」としゃあしゃあと放言している。規制委は、この原子力機構の傲慢な無責任をどう追責するのか。

* 中野サンスヘプラザで、川平慈英を座長格のクリスマス スペシヤルコンサート「ア・ソング・フォー・ユー」を楽しんできた。高麗屋の松本紀保が出てい るので座席を頼んだ。春野壽美礼、池田有希子、杜けあきそれに巧者の松本紀保がそれぞれの歌唱を競いまたバックを堅めて、男性は上条恒彦、尾藤イサオらが 力演・熱唱、ことに臨時のゲスト二人の歌唱の卓抜に感動した。曲はカーペンターのを主に、プレスリーのも尾藤と慈英らが爆唱、喝采を浴びた。十一人プラス 二人のゲストの、流れるような演出のもとに、だれのどの歌も楽しい歌声に広い会場が沸いていた、とても楽しかった。
 歌唱は人間の生理を弾ませる一種特別の器楽であり、胸にひびいて魂を躍動させる、わたしは楽器が奏でる音も愛でるが、人がうたうのが好きなのである。う まく歌われると意味の取れていない外国語の歌でも、涙を催すほど惹かれる。歌曲のコンサートにもたまに出かけるが、今日のよく仕立てられたコンサート形式 の微塵停滞なく元気に優しく心地よく高潮したミュージカルは、すてきなわたしへの鼓舞でもあった。

* 朝夕に贈られてきた「めで鯛」の姿焼き、「福」の「ふぐ一夜干し」を、帰宅後、明日誕生日の前夜の祝い膳にと妻が用意してくれた。ありがたくご馳走になった。「旨かった鯛と福」に感謝します。
 晩に金沢から金田さん、能登風味詰め頂戴。ありがとう。 
 明日は、夕方から国立大劇場で、うって変わって歌舞伎の通し狂言『鬼一法眼三略巻』を楽しんでくる。「清盛館」がめずらしく、「菊畑」「檜垣」「奥殿」 と続いて吉右衛門が一条大蔵卿の大芝居。はねるのが九時前なので、外での食事はあきらめねばならない、家でゆるりととりどりご馳走にあずかります。

* プレハーノフのマルキストとしての最良論攷と声価の高い『歴史における個人の役割』の、訳者木原正雄氏の解説は、一編の論文を読むように明確で達筆 で、すこし間をおいてもう一度も二度も本編を読み返したい気持ちを、力強く誘ってくれた。フレハーノフはマルキストに徹しきれず、亡命を余儀なくされて故 国の事情から距離が空いたに連れメンシェヴィキに変節していった人である。木原さんによれば、つまり彼プレハーノフは、「レーニンとおなじく、ロシアの資 本主義の発展をみとめ、革命運動における労働者階級の役割を評価しながらも、きたるべき革命の同盟者は、ブルジョアジーだと考えた」のである。
 日本での「転向」へ雪崩をうった主義者や、戦後の学生運動で「造反有理」を叫んでいた多くも、結局は「ブルジョアジー」という「経済信奉者」へと概ね変 節していった。そして彼らは共産党の政権に完全に道を閉ざし、労働者に力点を置いていた「旧社会党」を徹底して政界から排除に努めた。なれのはてが今の 「民社党」である。彼らは労働者には係わらずにただ「護憲」だけを旗印にしているが、護憲は絶対的に必要でありながら、それだけでは社民党に投票する気に だれも成らない。そもそも「社民党」の名のりはブルジョアジー経済偏重の「自民党」同様に、無策・無意味に滑稽である。

* 読み上げたフローベール著の『紋切型辞典』の訳者小倉孝誠氏の「解説」も、嘆賞の極み、じつに条理も情理も尽くした面白い大論文で、本書を座右に置かずにおれない示教と示唆とを満喫した。
 その委細を尽くした感の小倉氏解説に、畏れながらも、異見をさしはさんでみたい「読み」があり、それが、今書いている小説にも波及しているのを告白しておく。
 いやもう、興味津々の『紋切型辞典」であったのを、心より喜んでいる。プレハーノフの古典と成ってみごとな『歴史における個人の役割』にも、目を瞠らいて読んだ感謝を惜しまない。小倉さんの解説はいま少しして読み上げる。 

* さすがに視力も駆使して、いまは十時過ぎ、ぐたりと疲れています。今夜はもう休みます。


* 十二月二十一日 金   喜壽 七十七歳 

* 血圧132-62(55)  血糖値90  体重64.9kg   朝  洗眼 点眼  朝食  赤飯 「めで鯛」と潮汁 蕪 ヤクルト 少し酒 朝の服薬 朝の仕事 国立大劇場で中村吉右衛門らの佳い歌舞伎を堪能 午は、柿葉鮓と弁当を妻と分け合い  午の服薬 どこへも寄らず帰宅遅い夜食 夜の服薬 今日は休息 今日は劇場でを含め三度排便

* 朝一番に、今日の喜寿を祝って下さり吉備の有元毅さんから「鯛」のご馳走いろいろを頂戴した。昼食に戴こうと。有難う存じます。
 「珠」さんからも、お祝いにと、和久傳の名菓いろいろを頂戴。重ね重ね、ありがとう。
 小松の八代啓子さんからは、めでたくも立派な北国の昆布を頂戴、また写真家の井上隆雄さんから、小山園の銘茶また茶を生かした菓子など頂戴、ありがとう存じます。

 ☆ 21日
 お誕生日を迎えられ、お慶び申し上げます。この一年の一日一日が深い意味をもつ日々でありました。
 HPでの体重の記録に息つめ読み取ろうとしてきました。同時に強靭な鴉の精神、意志に、逆に励まされる鳶でした。
 冬至、そして今、甦りの時です。存分に書かれますよう、そしてお体大切に大切に。  尾張の鳶

* ありがとう。元気に新年を迎えて下さい。                  

 ☆ 遠様 お花 8
 早、年末になりました、その後体調はいかがでしょうか、しばらくHPはご無沙汰です。
 喜寿お目出とう御座います、お誕生日迄無事に来られて何よりと思っております。
 今年の紅葉は例年に無くとても美しかったです。まだ所々色付いたまま、静かに楽しんでいます。
 先月末以降、楽しみなど等忙しくしておりました。紅葉は人が多くて、近場の智積院に写真を撮って来ました。思い出の旧美大の校舎にかすかに、桜の頃も思い出します。
 久し振りのマイハンドルで信楽のミホミュウジアムまで行って来ました。
 15日は(母校の茶道部)雲岫会の集いでした。お正月は変わりなく初釜を準備して居ります。
 南座の顔見世も4日に、何事も無いときでした。
 (亡き勘三郎の)息子さん達は何時もよりも光ってましたので、安心して帰りました、(勘三郎の逝去)とても残念です。
 私はこれからが本番です。早々には来客あります。
 大晦日は除夜の鐘を聞きながら一服いただきたいと思って居ます。
 これから寒さが続く様です、無理をされない様においとい下さいませ。   日吉 華
                                   
* 旧京都美大、昔の繪専の後進、この大学の構内に、新設まもない母校だった市立日吉ヶ丘高校が借家住まいしていた。わたしが二年生になった春から泉涌寺 の下、東福寺の上手に新築された校舎へ移転した。この新しい日吉ヶ丘もなつかしいが、一年間の仮住まいだった旧美大の風情もよく記憶している。接地して名 刹智積院があり、太閤坦(たいこだいら)へ登るきわに新日吉神社、少し上に京都女子大、東山線の電車道をはさんだ西に恩賜京都博物館や豊国神社、その南向 かいには三十三間堂や後白河院の法住寺御陵やなどが在った。また木造の借家校舎のすぐ脇に山科へも泉涌寺のほうへも通える細い山坂道があった。
 その校舎などをいかして紅葉の写真を貰っているのに、これが此処へ転写できないとは残念。この課題を年内になんとかしたいがなあ。 華、佳い新年を迎えて下さい。

* 上野重光さんからもメールを戴いたが、特殊な設定らしく、うまく此処へ移せない。選挙結果への批評の短歌がたくさん書き込まれているのだが。
 うってかわった春を元気に祝って下さい。 

 ☆ 建日子です。
 お誕生日おめでとうございます!

* 歳末も、歳末だからか、追いまくられているらしく、昨日も今日も会食も出来そうにない。
 
* 昔、娘の朝日子が、父わたしの誕生日に、思いがけず中国酒、大好きな「マオタイ」一瓶を買って帰ってきたことがある。ほくほくと嬉しかった。元気に、日々満足して暮らしているだろうか。
 たった一人になった孫のみゆ希は、どこにどう暮らしているのかなあ。

* 午、吉備の人の祝って下さった「めで鯛」のご飯と汁とを美味しく美味しく温かく戴いた。幸せなこと。

* 新歌舞伎座こけら落としの四、五、六月、各三部制の演目、番組が新聞に報道された。もし可能なら「全部観たい」と願っている。

* 昼過ぎから国立大劇場で中村吉右衛門の鬼一法眼・一条大蔵卿二役の通し狂言『鬼一法眼三略巻』四場を堪能してきた。前から五列、花道にまぢかい角とい う絶好席で、開幕の「清盛館」という珍しい場で、歌六の貫禄清盛に賛同、手練れ芝雀の皆鶴姫とまだ若い歌昇の笠原湛海との達引も微笑ましかった。ふつうは 次の「菊畑」の場が馴染み。吉右衛門の鬼一法眼老いの弱みながら剛直の威力といい、掛け合う又五郎の奴智恵内こと実は法眼弟の吉岡鬼三太の実直といい、加 えて梅玉の虎蔵実は牛若丸と皆鶴姫との色模様といい、湛海の三枚目といい、楽しめる一場。わたしは遠慮も半ば、半ばはあえてまぢかい舞台から一直線に来る 吉右衛門の眼を、望遠鏡で覗きつづけていた。役者の覚悟は眼に光る。光らない役者はダメ。吉右衛門ほどになると、それを見せてもらえるのが特別の感興に成 る。「檜垣」の場では、つくり阿呆の一条大蔵卿、あの牛若らの母常磐の前を今は妻として平家の清盛から預かっている公卿が門外に姿をみせ、常磐の家来で あった鬼次郎・梅玉と妻お京・東蔵とが接触する。ここは一条卿の阿呆ぶりが見せ場で、吉右衛門の藝の眼を覗き込む楽しみも申し訳なさも一倍。そして大喜利 「奥殿」での、魁春が演じる常磐の前の苦衷と告白、愛くるしいほどの阿呆ぶりと、口跡凛々、もとは源氏の身を鬼次郎夫妻に語り聴かせて、牛若に、機を待ち 源氏再興に蹶起せよと伝える大蔵卿本気の風格、堪能できる佳い場面、とても気分良く楽しみました。抗癌剤だけは、劇場で服用。

* どこへ立ち寄る時間でなく、一路順調に帰宅。ご馳走での遅い晩食 服薬。そして何もせずにやすんだ。
 今日という喜壽の日に、マヤ文明の暦が果てると聞かされていた。即ちまた真新しい暦が継続するのであり、壮大な繰り返しの新たな一歩が明日から始まる。よしよし。



* 十二月二十二日 土    

* 血圧124-65(51)  血糖値88  体重63.9kg   朝 点眼  朝食  鯛飯 潮汁 烏賊鮓 千枚漬 ヤクルト 朝服薬 秦建日子作二時間ドラマ 仲間由紀恵らの「悪女達のメス」観てから、機械の前へ。 昼 鯛チャーハン コ ンソメスープ 林檎・栗少しずつ 昼服薬 午後の仕事 晩は 鯛飯 蜆味噌汁 蟹爪クリームコロッケ二つ 千枚漬 R1ヨーグルト 晩の服薬 晩の仕事 

* 朝いちばんに、昨日録画しておいた秦建日子原作・脚色の二時間ドラマ、仲間由紀恵主演「悪女たちのメス」を観た。前にやった仲間と朝香との第一話「イ ンシデント」より、わたしは、今回作のややこしさのほぐれて行く展開のうまみに賛成した。それにしても要するに「殺し」ドラマ、感動はない。その点は米倉 涼子が大ヒットをとばした「ドクターX」の方が殺しでなく「生かす」ドラマだった分、痛快だった分、楽しめた。むろん「殺す」にも感動の湧く例も有りは有 るのだろうが。

* 何故か分からないが、歌の切れっ端が頭にのこってしょっちゅう口をついて出てきて弱ることが、まま、ある。人様にもあるかは知らない。いまは、歌舞伎 の蔭囃子というのか下座音曲というのか、吉原通いを唄った切れ端の、「通ひなれたる土手八丁ォ」というのと、コマーシャルに出てくる「佐藤の切り餅ィ 餅  餅 もっち 餅ィ」というのに憑かれて、離れてくれない。罪のない犯行ゆえ赦してはいるが、時に邪魔になる。

 ☆ 来る年のお幸せを、感謝とともに。
 昨日、お祝いのメールと思い乍ら撮影で軽井沢に一日行ってまして、一日おくれになってしまい。あらためて喜寿おめでとうございます。
 今年は秦先生にとっても大変な病との戦いでられたにもかかわらず、何時もにこやかにお芝居を御覧に来て下さり敬服しています。そして側には、いつも暖かい笑顔の奥様がいらして嬉しく感じています。
 私共にとっても未だに思いもかけない(染五郎丈の)出来事でしたが、ほんとうに奇跡といっても過言ではないほど回復がはやく、有難く思っています。
 幸四郎が文化功労者に顕彰されました事は、いままでの幸四郎の生き方を認めて下さったと存じ、応援して来て下さった方々が喜んで戴き、大変嬉しく、感謝でございます。
 らいねんは歌舞伎座が愈々会場されます。平穏でいい年になります様、祈るばかりです。
 どうぞよい年をお迎え下さいませ。  高麗屋夫人

 ☆ 祝・喜壽
 少し遅れましたが、お誕生日おめでとうございます。
 今年は隠れていたお病気が見つかり、二度の手術に三度のご入院を天に守られてのご帰還。佳き一年でいらしたことと思います。
 新しい一年の、ご回復の順調でありますこと、お仕事の益々の豊饒をお祈り申し上げます。  朱
                                                
 ☆ お誕生日おめでとうございます。
 ご無事に喜寿をお迎えになられお喜び申し上げます。
 今夜は歌舞伎を楽しまれておられる頃でしょうか。
 毎日の体調を冷静に見極められ対処されているご様子に、頭がさがる思いです。
 11月に久しぶりに東京に行きました。
 新装なった東京駅とスカイツリーを見てきました。
 大泉学園で保谷行きの電車を見ながら、よっぽどお訪ねしようかと迷いましたが、ご迷惑かと又の機会に託しました。
 京都にもおいでになれますよう、体力が回復されますよう心より願っています。
 くれぐれもお大切にお過ごしくださいますよう。     みち 母方従妹

 ☆ 京のわる口、ありがとうございました  
 恒平さん  七十七歳、おめでとうございます。始終苦であってもなお、恒平さんに楽の喜びの待つことを、願っています。
 こちら (スペイン バルセロナ) 財政難の街、表面上はまだまだ平然さを保っています。クリスマスの賑わいもあります。これから、ぐんと犯罪が増えてゆくだろうな、と感じてはいますが。
 街に饐えた臭いが蔓延るのも、労働者の権利や社会保障・教育システムが、あれよあれよとなし崩しにされているように、思いの外早いのではないかと思います。
 過去・現在・未来合わせて、私たちは最もよき時代、最も恵まれた社会に生まれ育った人間だろう、と夫とこれまでもよく話してきましたが、どうやらどうやら、……そうかどうか。私たちは、元気に幸せに生活しています。  京  東工大卒業生

* 新歌舞伎座四、五、六月の「こけら落とし」興行は、予想通り観劇希望者の殺到らしく、願うままに座席が手に入りにくい状況ですと連絡が来ている。拘泥しない。可能な限りが可能になればで、よい。
 三月に福助か初役で「女清玄」を国立劇場でやる。南北があの名作「桜姫東文章」より早くに書いていた作で、筋はなかなか面白いのを、これも出来れば観たいと手配を頼んだ。


* 十二月二十三日 日    

* 血圧137-60(59)  血糖値70  体重64.1kg   朝  洗眼 点眼 朝食 粥一膳 栗 服薬 薬の量の一気に多いせいか 下痢三度続く。 昼、きつね饂飩 蟹の酢の物 昼の服薬 下痢気味 次第におさまる 午 後の仕事 眼疲れる 晩 飯 コンソメスープ 大根と鰊の鮓 ほっけ開き 少しずつ ヤクルト 晩の服薬 晩の仕事 十時半 もう眼が見えぬほど霞んで。  鳥目ではないのか。 寝る前に掌紋を成す筋の悉くが皹割れていて驚いた。初めて気づいた。クリームで緩和。

* 大島史洋氏の処女歌集の復刻された文庫本『藍を走るべし』を貰った。ほぼ一世代若い人、この歌集は氏の十六歳から二十五歳までの作を載せていて、わた しの『少年』がやはり十五、六歳から二十三四歳までの作を収めたのと、重なり合うよう。この歌人は、わたしがアマチュアなら、そして歌誌の世界へ加わるの をさけていたのと逆に、十六歳で「未来」に入会、この処女歌集を刊行した昭和四十五年には二十六歳ではやくも「未来」奇数号の編輯を担当していた早熟のプ ロであった。
 なによりこの歌人とわたしとの、わたしからの勝手に結んだ縁は、著書『東工大「作家」教授の幸福』の表題を成した氏の一首「生きているだから逃げては卑 怯とぞ幸福を追わぬも卑怯のひとつ」に有る。氏のこの歌が、東工大での教室や教授室での学生諸君との交友の基底に鳴っていたいわば主題歌であった。
 で、『少年』と『藍を走るべし』との巻頭二首、巻末二首を記念に並べておきたい。

 窓によりて書(ふみ)読む君がまんざしのふとわれに来てうるみがちなる
 國ふたつへだててゆきし人をおもひ西へながるる雲に眼をやる   「少年」巻頭 昭和二十六年

 山塞のみどりはつなつ越え来たる隊商の売る太き角笛
 うたるるは吾かもしれず木の骨の刀をかざす群のなかにて      「藍を走るべし」巻頭 昭和四十二年

 枝がちに天(そら)さす木(こ)ぬれ風冴えて光ながらに散らふわくらば  
 葉さやぎはきくさへかなし散りながらむなしく待ちし人恋ひしさに   「少年」巻末 昭和三十五年

 まなこのみ死なざりしかば花笠に喜々たる群を見あげていたる
 はてしなき野はくれそめてたましいのひとつひとつの顔の顕つころ  「藍を走るべし」巻末 昭和四十四年

 氏の巻末この年に、わたしは小説『清経入水』に第五回太宰治賞を受けていた。歌読みとはとうに離れていたのだが。
 じつは近年になり、うまくはないが、ぼこぼこと泡のように妖しくも短歌らしきが湧きだし、夜なかなど、寝そびれて困ってしまう。それでいて書き留めない からすぐ忘れる。書き留めていれば百や二百はあまりにも簡単にできて行く。このまえ出した第二私家集老境の『光塵』はさもその前兆であったようだ

* 梅若研能会から、来年上半期分の招待券がいつも通りに届いた。感謝。 

* 京都の「清水六兵衛家」展の招待を六兵衛さんから戴いた。観たい。東京でなら飛んででも行くが、愛知県陶磁資料館では、やはり動けない。
 「楽吉左衛門」展も招待されているが琵琶湖畔では、やはりどうにも今はならない。東京なら飛んで行く。残念。

* 群馬渋川市の元図書館長、読者としても久しいお付き合いの森田比路子さんから、クリスマスカード。
 「先生 喜壽のお祝い申し上げます。ごく体調が少しでもお楽でありますようお祈り申し上げております。おめでとうございます。」と。

* 眼霞んで、もう字が読めない。


* 十二月二十四日 月    

* 血圧126-62(60)  血糖値84  体重64.2kg   朝  洗眼 点眼 朝食梅干茶漬飯一膳 甘鯛 塩昆布 奈良漬 朝の服薬 午前の仕事 昼 グラタン 蒸しパン 昼の服薬 午後の仕事 晩 玄米牛乳粥少し 春 巻三本 白菜と薄揚げの煮びたし ヤクルト 入浴読書五冊。 指先の痺れ 足首の痒み。 涙目 洟水 濃粘唾液 三者は連携しているのかも。 屡々温水で 洗眼 そして口腔を綺麗に。 

* フローベールの『紋切型辞典』 懇切な解説(小倉孝誠氏)まで悉く、読了。こんなに面白い、まさに面白い本、適切な解説に出逢えたのは幸運であった。定価740円の岩波文庫本をブックオフで450円で手に入れた。
 最近に手に入れたトルストイ『イワン・イリィチの死』、ロマン・ロラン『愛と死との戯れ』やブレハーノフ『歴史における個人の役割』など幸運の出逢いを 大いに楽しんだ全てはブックオフの岩波文庫を買ってきたものばかり。今読んでいる『臨済録』もツルゲーネフ『猟人日記』もトルストイ『親和力』も然り、少 年の昔からの岩波文庫敬愛がまざまざと蘇ってきている。読み始めていない予備本も十冊ほど傍に積んである。
 何の欲も野心もなしに読書が楽しめるなんて、なんて豊かな贅沢だろう。

* クリスマスには、昔から関心が無い。イエスの言葉に大きな示唆をうけ感謝しても、クリスマスという日本ではいまや只の風俗と営業とに化した騒ぎには顰蹙のみ。

* 乳ガンの同時法手術で、手早く癌も取り、乳房も、全摘どころか、元よりも美しく再生させている名誉の国手をテレビで観て、医療の愛に感心した。本人も家族もサゾ嬉しかろう。

* 昨日で大河ドラマ『平清盛』が大団円となった。立派に趣向の生きた誠実なザ・ラストであった。作者内田有紀さんに惜しみなく拍手を送るとともに主演の 松田ケンイチ君の清盛変貌と大成と終焉の演技に感嘆し続けたことを大書しておく。もう一人の後白河院の役作りにも教えられるところ有った。滅多にない優れ た藝術性を発揮の大河ドラマでした。ご苦労さん。

* 十一時前。やすまねば。視野は朦朧。眼鏡も役に立たない。



* 十二月二十五日 火    

* 血圧126-58(60)  血糖値70  体重64.5kg   朝   白粥 梅干 塩昆布 温泉卵 朝の服薬 新刊湖の本発送用意昼 スパゲティ少し コーンスープ ビーナックリーム 昼の服薬 午後の仕事 視野不良で疲れ る 睡眠 晩 粥いくら 梅干 干柿 焼酎 ヤクルト 晩の服薬 晩の仕事

* 日録の少ない日は、「仕事」に向かっています。

* 視野の動揺は止めどなく、したい仕事が停滞する。これが病気なのだと肝に銘じている。まだ九時なのに、やすむしかない。



* 十二月二十六日 水    

* 血圧135-63(63)  血糖値95  体重64.8kg   朝  蒸しパンにバター 蜂蜜紅茶 柿 朝の服薬 午前に盛大快排便 体重64.7kg
昼 狐蕎麦 柿 昼の服薬 午後の仕事 眼の不自由に書き仕事も読み仕事も寸断される しばしば休んで洗眼と点眼 目やに涙と零れる洟水と粘唾液はどう考 えても一体のように想われる。 晩は 飯一膳に佃煮 ロールパン一つとジャム・ピーナツクリーム ヤクルト 晩の服薬 晩の仕事 難渋しながら続ける。  入浴読書五冊 浴後体重64.3kg。 握り飯二つ食す。

* 自民党安倍内閣成立。 「原発」担当大臣石原伸晃は、去年初夏の頃、盛り上がる「反原発」百万デモを指さし、「集団ヒステリー」と吐き捨てた男だと、 はっきり思い出し、その施策から、言動から眼を逸らすまい。党三役に石破幹事長を牽制すべくイエスマンの側近でどうしようもない高市早苗を政調会長に起用 し、総務会長には野田聖子を入れた。早晩、安倍のあからさまに嫌っている石破幹事長は、干し上げ、棚上げされて行くのでは。この辺に亀裂がもう見えてい る。

 ☆ 武蔵の鴉へ
 HPに、目についての記述を毎日見かけます。書き、読む人にとって目がどれほど大切なかけがえないものか!! 昨晩は殊に早い時刻に休むと書いてらしたので、よほどお辛かったのだと察します。何もできず横になってじっとしている時、思いを巡らしていると
、着想や言葉が連なり迫ってくることはありませんか? 願って到来するとは限りませんが、どうぞゆったりなさって、静かに時間を紡いでください。些か僭越、お許しあれ・・。
 師走と言ってもそれほど忙しくないはずなのに、何故か忙しく、気持ちも身体もやや疲れ気味の鳶です。そろそろ正月の準備を始めようと思っています。6人プラスアルファーの正月迎えです。
 まだ年賀状に手がついていませんが、まあ、多くないですから何とかなるでしょう。
 「清水録兵衛家」展 「当代楽吉左衛門」展は京都、滋賀あたりの展覧会でしょうか? 娘がクリスマスのプレゼントに迷って青春切符を買ってくれたので、 大いに正月早々も「外出」したいと思っています。例年より雪の便りが多く、雪の時期こそ琵琶湖から日本海に旅したいと、いつも思います。
 この一年は引越し、親の家の整理など未だ終わっていない作業に急き立てられた一年でした。わたし個人に限ってみれば新しい人間関係がまだまだ希薄で、関西から根を引き抜いてきた悲しみがあります。
 書くことも描くことも真正面に据えなければ。まず、これまでのものを纏めなおそうと。これは新しい年に向けての一番の思いです。
 東京も寒いでしょうか。病院など外出の機会も多々あるかと思いますが、風邪引きませんよう。大事に大事に。 尾張の鳶
 
* 詩集という「一」を起こしたのだ、佳い「二」が産まれますように。
 「起一生二」ということを教わったのは、荻原井泉水さんから。いまわたしの頭上の壁には、井泉水さんの美しい濃淡大字の「花 風」 「秦 恒平雅兄一餐 井泉水」の額が掲げてある。                           

* 讃岐の岡部さんから、京風味の生湯葉などを御見舞に、、また、お付き合い久しい近江の小田さんからは、いつもの梅干しのほか、梅酢、名酒二種、酒粕、珍しいお茶等々、少しでも食べて呑んで下さいませと、お祝いと御見舞を戴いた。お二方、有り難う存じます。

* ひっきりなしにFACEBOOKのめーるがいろいろ知らせてくるが、わたしは、何かを間違えているか、通じていないのか、操作して画面を開けないし、どんな要望にも応えられない。今では、「mixi」も同じ。
 FACEBOOKについて、何かしら教えてくれるような知らぬ人のメールも届いているが。

* 九時。湯につかってきて、可能ならもう一度此処へ、機械の前へ戻ろう。 

* 湯のなかで五冊の文庫本を読んできた。ツルケーネフの『猟人日記』の人間把握と文章・表現の強さ・妙味にはほとほと感嘆する。建日子に読んで欲しい。
 浴後の体重64.3KGは、眼科退院以降、最低かもしれぬ。


* 十二月二十七日 木    

* 血圧139-62(54)  血糖値108  体重64.3kg   朝  海苔握飯一つ 柿 ヤクルト 朝の服薬   朝仕事 妻と西武デパートへ 雑煮用京味噌と、蛤を買う 例年は大晦日のわたしの仕事だったが。 遅い午食に西武地下「寿司政」で一人前の鮓と八海山を。  晩は、中華肉饅の皮だけ半分 コンソメスープ 晩の服薬  明朝より抗癌剤一週間休薬 中国の映像「石の海・石の盛」観て 晩の仕事

* 自民党政権 安倍内閣に早くも「原発維持」を明言の経産相茂木敏充談話が出た。重大な「民意への挑戦」であり安倍内閣の正体暴露と観た。東通原発が、 複数の「活断層上」という規制委チーム意見は、総員一致で再確認された。東北電力は、たんに「地層膨張・膨潤」だと反論しているが、そんな見解は学問の世 界で通用しないとする専門家が多い。いずれ経産省の後押しを願っているのだろうが、今のところ規制委は「活断層」との委員一致の見解に拠る姿勢。敦賀原発 は廃炉の体勢。大飯原発も「活断層」を抱えたまま唯一稼働中。厳格な調査結果にのみ規制委は従って政権の横槍ははね返して欲しい。
 「反原発」の総意に導かれてきた「民意」は、旧に百倍する覚悟で新たな闘いに立ち向かわねばならぬ。「全ての原発稼働に反対」し「全ての原発新設に反対」し、「危険な核廃棄物の最終処理促進に安倍内閣の方策を糺し続けて行く」道を、しっかりと見定めねばならぬ。
 安倍内閣の露骨な「後戻り反動」は日増しに執拗に表現されてくるだろう。「許さぬ」という民意の再構築にいわば「国民議会」の創設を期待する。わたし自 身が体を働かせ得ない病身であるのが残念だ。表面これは文化活動ではない政治活動であらざるを得ないが、究極には日本の誇るに足る文化の擁護に繋がってく る。「民意」増強に、民意を高める生き生きした「言葉の発露」が願わしい。
 わたしは、具体的に、「湖の本」と此の「言い置く私語」に拠り、闘う。賛同を切望する。

* すでに首班指名以前からアベミクスを唱える安倍氏は、公然、日銀の歴史的な独立性に強圧を加えていて、日銀にも毅然とした姿勢が萎えている。金融の安 定には「日銀の独立性」は欠かせない。安倍「悪政」ははやくも暴走を見せていることに国民は甘くあってはならない。ましてや憲法改正に必要な「三分の二」 規定をとにかくも先ず「二分の一」に強引に改憲変更の上で、思う様の強行・悪改憲を安倍自民党は露骨に目論んでいる。卑怯な考えであり、改憲に真に理があ るというなら、当然「三分の二」以上の賛同を得ればよい。明らかな凶暴の悪政を始めつつある。指弾すべきは当然。

* ゲーテへの敬愛は深い。普遍の「言葉」で普遍の真実や心理を結晶させる。『フアウスト』がそうであったし、今読んでいる小説『親和力』でも『イタリア 紀行』でもそうである。いわば家庭小説の秀作『親和力』に聴いてみよう。この願いもまた、ひたすら利権と私欲のまえに狂乱して見える低俗政治屋や経済屋へ の厭悪に発している。そう読まれて構わない。

 ☆ ゲーテ『親和力』に聴く  抄録 実吉捷郎氏の訳に拠って。  
 「エメラルドがそのすばらしい色で、視覚を楽しませるとすれば、いや、この高等な感覚に、いくらかの浄化力を及ぼすとすれば、人間の美しさというものは、さらにはるかに大きな力を、官能と精神に及ぼすからである。」
 ミットレル曰く、「良心というものとも、やはり結婚してはいませんかな。良心からのがれたいと思うことが、よくありますね。それはね、良心のほうが、われわれにとって、夫なり妻なりがうるさいよりも、もっとうるさく感じられるからなのですよ。」
 シャルロッテ曰く、「わたくしたちは(真に優れた)多才な人と会っても、話をかわすこともなく、(真に優れた)学者と会っても、ものを教わることもな く、(真に優れて)円熟した人に会っても、啓発されるところもなく、(真に優れて)心のやさしい人に会っても、親切をつくすこともないのですからね。」 「なぜ世間の人が、死んだ者のことは、率直にほめるのに、生きている者のことは、いつでも用心しながら(利己的に)云うのか、という疑問をわたくし聞いた ことがありますの。その答えは、死者からは何をされるという心配はないが、生きている者には、またどこでめぐりあうかわからないから、というのでした。他 人を思い出すときの心づかいは、それほど不純なものですのよ。それはたいがい自己中心のたわむれに過ぎませんわーーそれと反対に、生き残っている人たちの 関係を、いつも生きて動くものにしておくのが(真に優れて)、神々しい真剣な仕事だとしましたらね。」
 オッティリエ曰く、「自分の一身を死後までも保とうとむする人間の心づかいが、いかにむなしいか。しかもわれわれはじつに矛盾だらけだ。」「いったいわ れわれのすることは、すべて永遠を考慮しながらなされているのだろうか。われわれは朝きものをきたと思うと、晩にはまたぬいでしまうではないか。」「人間 に対すると同様、記念碑に対しても、時は、権力をふるいつづけるのだ。」
 「はたけちがいの仕事に身を入れるのは、いかにも気持ちのいいものだから、しろうとが、とうていものにならないような藝術にたずさわるのを、何びとも責 めてはいけないし、藝術家が自分の藝術の境界をのりこえて、となりの分野に低徊するのを、とがめてはいけないであろう。」
 オッティリエ曰く、「いくら世間から引っこんでくらしていようとも、人は知らないうちに、債務者かまたは債権者になってしまう。」「自分の心を告げるの は、自然のいきおいである。告げられたものを、ありのままに受けいれるは、教養である。」「反ばくと追従は、両方ともまずい会話のもとである。」「中庸の 道というものは、われわれの愛する者たちに対する信頼と沈黙の場合ほど、ねがわしいことはないであろう。」「畏敬のかわりに親しみを示すのは、常にこけい である。」「礼節の表面的なしるしには、かならずふかい道義的な根拠がある。真の教育とは、このしるしとこの根拠を同時に伝える教育である。「行状とは、 各人が自分の姿をうつしてみせる鏡である。」「心の礼節というものがある。これは愛と同質のものだ。この中から、外形的な行状のもっとも快適な礼節が生じ てくる。」「おろか者とりこう者は、同様に無害である。ただ半ばかと半りこう、これこそはもっとも危険な人間なのだ。」「世の中をのがれるのは、藝術によ るのがもっともたしかであるし、世の中と結びつくのも、藝術によるのがもっともたしかである。最高の幸福と最高の苦難との瞬間においてさえ、われわれは藝 術家を必要とする。」「(真に優れた)藝術は困難でかつ優良なものを仕事の対象とする。」「むずかしさというものは、われわれが目的に近づけば近づくほ ど、つのってくる。たねをまくのは、とりいれをするほどには骨が折れない。」

* 以上、『親和力』第五章までから、引いてみた。ゲーテは偉大な中庸の人。抵抗を覚える人がいても自然であるが、抵抗のはてに自身が何者であり得ている のかを思うとき、思いぞ屈することが多い。要するに、叱られていると思えばよい。わたしは、バグワンによっても、ゲーテその他の優れた人の言説には、ひた すらいつも「叱られている」と思いもし感じもして、そのなかで鍛錬を享ける。

* 亡くなった湘子さんの昔からいつも寄贈をうけてきた俳誌「鷹」の早や正月号巻頭に日野草城が「現代俳人列伝」を飾る人として取り上げられていたのは嬉しかった。選句されているのも意に満ちて有難く。書き写さずにおれない。

 春暁や人こそ知らね樹々の雨
 けふよりの妻と来て泊つる宵の春
 枕辺の春の灯(ともし)は妻が消しぬ
 をみなとはかかるものかも春の闇
 失ひしものを憶へり花ぐもり
 春の夜の自動拳銃(コルト)を愛す夫人の手
 物種を握れば生命ひしめける
 ところてん煙の如く沈みをり
 水晶の念珠つめたき大暑かな
 こひびとを待ちあぐむらし闘魚の辺
 見えぬ眼の方の眼鏡の玉も拭く
 高熱の鶴青空に漂へり

 新婚の「ミヤコホテル」一連には賛否が湧いたが、甘いエロスをただよわせている、が、この俳人の「ホトトギス」との関わりも、破門や復帰などありフクザ ツであった。わたしの好きなひとりではある。わたしの詞華集『愛、はるかに照せ』にも、此の草城の冒頭句、第三句を採っている。
 秦の母と同年明治三十四年に生まれ、昭和二十六年には右眼の明を失し、昭和三十一年一月に逝去。



* 十二月二十八日 金    

* 血圧118-47(60)  血糖値92  体重64.6kg   朝    中華肉饅の皮少し 林檎半分 ミルク蜂蜜紅茶 R1ヨーグルト 朝の服薬 一週間抗癌剤休薬 徒歩で郵便局へ 昼 狐蕎麦 半熟卵一つ 昼の服薬 モック ンの映画観る 洗眼  夕刻の仕事  晩 白飯一膳 魚少し ヤクルト 晩の服薬 晩の仕事 晩方すこし息が喘いでいたが、大事ない。 しんどいのは視力と視野との霞みだけ。 何とでも凌げ る。

* 環境・原子力防災大臣になった「軽い男」と定評の石原伸晃が、れきとした「原発推進」者であることは周知で、本人も否定していない。そのような者が 「原子力規制委員会」の人事も左右できる。唖然。新聞ははっきり「原発維持シフト鮮明内閣」「脱・脱原発<福島圧殺>危惧内閣」「3/11をもう忘れた か」と批評している。

* 嘉田由紀子代表の「未来の党」は、小沢一郎の一群が「生活の党」と改名分党し、「未来」は党としての存立が不可能となった。小沢派が庇を借りて母屋を乗っ取ったかたち。予測できたことだ。
 あの乱立総選挙で「未来」という党名は訴求力を欠いていた。「今・此処」に有効に対応しつつ未来をうかがうのでなければ漠然としてしまう。それは10年 後でも30年後でもかわりなく、原点に明確に「脱・原発」を掲げつつ当面は「原発稼働の全停止」「原発新建設の不可」「核燃サイクルの継続に反対」「核廃 棄物永久処理策への超党派研究を提唱」などと、分かりよく要点に迫るべきであった。「一本の鉛筆に」に「未来」を託すなどの訴えは戦闘的でなかった。「小 沢一郎氏を一兵卒として使いこなす」などと言わず、彼の埋蔵している戦略能力をこそ「使いこなす」方がマシであった。「賢しゅうして、売り損ねた」のは、 返す返す悔やまれる。

* 昨日、亡くなった小沢昭一さんの事実上の遺著となった、生前に岩波書店で進行していたとみられる『俳句で綴る 変哲半生記』を頂戴した。ご遺族のおは からいであったろう。小沢さんとは著書の交換が驚くほど永く多く続いてきた。民俗藝能の歴史的で実地見聞・解説的な主著など愛読し珍重してきた。俳句の本 も何冊ももらってきたが、今回の本は装幀も汲み体裁も立派な函入り本で、有終の美を盛んにしている。変哲俳句は、プロ俳人のしかつめらしさが当然のように なく、それゆえにまた俳味に冨み微妙の深層や真相を巧みに汲み上げている。優れた一代の変哲俳句を悉く冴え冴えとかつ温かく網羅してあり、たいへん貴重な 一冊をわたしのためにも遺し置いて戴いたと、敬礼している。変哲は、小沢さんの父君が往年名乗っておられた。いい話である。

 湯の中のわが手わが足春を待つ    には、癌による胃全摘のわたしの思いもよく代弁してもらっている。

 遙かなる次の巳年や初み空       には、泣かされる。「次の巳年」目前に小沢さんその人がわれわれから「遙かな」人となってしまった。歌舞伎の勘三郎とは、ことなる世間を生きてきたようで根深くに、彼もまたすぐれたカブキ藝の役者であった。

 寒月やさて行く末の丁と半        いずれであれ、さても変哲さん、あの世で大笑いであろうよ。

* もっくん(本木雅弘)が不良少年めく禅坊主の役で、ついには首座をつとめ禅問答をやるという、破天荒に可笑しい映画を昼過ぎに妻と楽しんだ。バグワン や臨済録を気を入れて読んでいるように、いまの、近年の、もうかな永い年月のわたしは、禅に一等向き合っている。そんな眼で観てもなんとも可笑しくおもし ろい周方監督の作画であった。これ以上を謂うと、生兵法に近くなるので黙するが。 

* 走りすぎていないかと、それとない危惧の声がきこえる時がある。正直に言えば、疾走している。死期を早めようなどと微塵思っていない。こう生きたいと 願うままを可能な限り、暴走ではなく疾走していたい、そういう人なのである、わたしは。霞んで見えないまま文字をまさぐりだして、書いている。禅人は愚か なと大喝を呉れるだろう。友人でも面色をおかして怒るかも。だが、ありのままに走りたければ走るのである。

 ☆ メール有り難うござい ます、わたしの方は訪問リハリビリを週二回、デイケアを週二回、ショートステイが三泊四日が二回でリハを受けて居ます。
 先生が横について230m歩いて居ます。一月には足に装具をつけて歩行訓練をします、夏休みの山登りに間に合わすべく頑張っています。
 さいのまごまで、この山歩きをたのしみにしているようです。  茅野市 松下圭介君の夫人か

* この状態でなお信州の山歩きを念頭にリハビリに励んでいる。少年の昔からねばり強く勇気に冨み気の優しい友であった。マスクも無い時代に、軟式野球の捕手を平気で務められた、わたしには、とても。頑張ってほしい。最後の最後は遙か遠くでいいのだから。

 

* 十二月二十九日 土    

* 血圧131-60(62)  血糖値93  体重64.5kg   朝  握り飯一つ半 ジャガイモの味噌汁二杯 朝の服薬 茶の間・押入の片づけ仕事 大量に紙類を始末 昼は 中華肉饅の皮だけ 栗柿など 昼の服薬 午後も重 い物を大量に隣棟に運び移し 力仕事に気が遠くなるほどよろよろと疲れた。 排便 量多く排便すると直後視野が数瞬明るいと感じる。 往年の中村勘九郎 (後に勘三郎)が内蔵助、大竹しのぶがりく、宮澤りえが遙泉院を演じていた大河ドラマ『元禄繚乱』の総集編を観て休息 晩は 蜂蜜ミルク紅茶 甘鯛(ぐ じ)のほぐしで飯一膳 柿・栗 氷菓子 晩の服薬 さらに片づけ仕事のあと、機械の前へ。 排便 入浴読書四冊 浴後体重64.9kg  浴後も二度下痢気味に排便 いま、十時半 眼が明るい。入浴のせいか。

*   朝目覚めたときが一日中で視野も明るく疲労もなく一番「健康」に感じる。食べて 服薬のあとにしんどさが始まる。ひどく疲れると小刻みにハアハアと衝いて 出る浅い呼吸。しかし家の内にいると涙も洟水も少なく、ただ口腔壁の灰にまぶしたような、かつ濃い唾粘液がこびりついた状態は、「食」の味にも量にも、ま た体重にも影響する。それでも総じては、しんどさもこの程度か、辛いと歎いたことはない。
 
* 茶の間に堆積・山積した重い物どもの整理と、隣棟や二階等へ力仕事での片づけ仕事にしんそこ疲労した。合わせて「百五十五歳の夫婦」には「暮れの片づ け仕事」はきつい。ま、なんとか正月が迎えられようか。妻は明日からお煮染めなどに取り組む。このところ立ち居に困窮するほど脚が痛くて病院にも通ってい た妻には、手伝う誰もなくて、可哀想に思う。近年は料理を買うことにしているが、やはりそれだけでは間に合わない。

* 新政権へ「命守れ」と昨日も「脱原発デモ」がなされていた。ねばり強く続けたい。
 妙な記憶だが、子供の頃の絵本で、聡い楠木正成が少年の頃、指一本で重い釣り鐘をついに動かしたという逸話に感じ入ったのを忘れない。
 水は、千メートルの岩をもまっ二つに裂いている。中国の「石の森」のおそろしいほどの景勝は、水が創り出したいた。

* 脱原発の政党に「再編の風」が吹くかとマスコミの一部に期待がみえている。根気よく、そして気持ちをていねいに合わせながら成功して欲しい。

* ふと気が動いて、鴎外の「ヰタ・セクスアリス」を書庫から出してきた。

* これもふと心惹かれて、「和漢朗詠集」を開く。

 ☆ 山寺
 千株の松の下に双峯の寺
 一葉の舟の中には万里の身      白楽天

 更に俗物の人の眼に当れる無し
 但だ泉声の我が心を洗ふあるのみ  白楽天

* 和漢朗詠集には独特の「読み」があるが、拘泥しないで読み下している。



* 十二月三十日 日    

* 血圧111-53(60)  血糖値87  体重64.5kg   朝  洗眼 蕪鮓少し 梅干山葵茶漬一膳 和菓子 蜂蜜生姜紅茶 服薬 昼 ロールパン一つ ジャム 和菓子 昼服薬 午後仕事 晩 生湯葉包揚げ一つ ハンペ ン 酒  晩の服薬  晩の仕事  腹に力なし 洗眼 排便。

* 仕事しながら雨を聴いている。「聴雨」 好きな言葉だ。年納めの平和な雨であれ。

 ☆ 歳の暮れ
 昨日展覧会の招待状いろいろ届きました。本当に嬉しいです。年明けから順番に巡っていけるよう計画を立てます。
 日本海側や北海道は低気圧の通過で、さぞ寒く雪が降っているだろうと。ここ尾張では静かな雨。
 新しい年の初めは清々しく晴れるよう願っています。
 そしてもちろん鴉にとって良い年であることを!!!
 さまざまなことを乗り越えられていかれますように。  尾張の鳶

* あした待たるるその宝船  と欲ばる気はない。靜かに晴れやかな朝日を迎えたい。建日子が発熱しているのが心配。

* 正月の用意は、大いに手抜きして、長閑にと。
 玄関には上村松篁「雪 鷺図」を大きく好きな小品が二作を左右に配し、干支の小物のほかに高麗青磁象眼白鶴の皿が立ててあり、播磨の焼物師がわたしの骨壺をと頼んで焼いてくれた金銀彩の壺に妻が正月花を盛り上げている。玄関外には丹波で買ってきた大きな壺を置いている。
 さて茶の間正面の壁には、「壽」の大字下に「たま」大きく描いた鵬雲斎の軸を掛け、大軸の下棚には、備前の川井明子が文部臣賞を得た大壺と、観世音菩薩像とが並んでいる。右の壁際に、これも好きな「花」の繪。
 向き合っての壁際の棚には、城景都の秀作「双鳥図」と、一人で大いに気に入っている小壺や、まだ宗淑の頃の淡々斎好み、蓬莱松蒔絵「末広」の茶器が配してある。
 その余は、新しいカレンダーを沢山もらっている。山種の竹内栖鳳ほかの名画集、速水御舟集、上村淳之の花鳥と現代書家たちとの競艶集、写真家隆雄氏の美しい作品集、動物の親子集、大相撲力士写真などで、狭い家がもう飾られている。
 お正月さんが、もうはや、明日にはござる。今年と大違いな、心静かな新年でありたい。


* 平成二十四年(2012)十二月三十一日 月 大晦日    

* 血圧112-57(64)  血糖値89  体重64.7kg   朝  洗眼 ロールパンジャム 半熟卵 ミルク蜂蜜紅茶 朝の服薬   正月飾り 昼は、甘鯛のほぐし 握り飯一つを茶漬けに 栗 酒粕 焼酎 和菓子 体調重怠く 昼寝 仕事 晩は、酒 年越し海老天蕎麦 蛤汁 亡き談志の 「芝濱」を聴く 夜の仕事 入浴前の体重65.3kg  入浴読書おさめは「南総里見八犬伝」「ゲーテ「親和力」ツルゲーネフ「猟人日記」辻邦生「夏の砦」 そして仕事納め。十時半。  

  ☆ 歳暮
 寒流月を帯びて澄めること鏡のごとし
 夕吹霜に和して利(と)きこと刀に似たり    白楽天  「吹」は、風。

 風雲は人の前に暮れ易し
 歳月は老の底より還り難し            維良春道 

* 今年
 正月五日 聖路加病院の人間ドックで胃癌と。
 二月十五日、聖路加病院外科で、胃全摘。胆嚢全摘の手術    三月三日退院
 三月十五日 高熱と強度脱水をともなう術後感染症で再度緊急入院 三月二十六日退院
 三月二十一日 妻、狭心症 胸痛発作
 三月二十三日 妻 保谷厚生病院入院 冠状動脈にステント挿入手術 翌日退院
 五月一日より、腫瘍内科の配剤で、抗癌剤「TS1」服用開始 
 七月二十三日 右眼の黄斑変性および白内障手術に三度び入院  七月三十日退院
 以降 抗癌剤の副作用に立ち向かいながら、療養の日々。妻には、両脚に間歇的強痛あり。老々、疲労。
 十二月二十一日 喜壽  七七は始終苦なりとそれも良し苦あれば楽のよろこびが松  宗遠

* 大晦日
 明日ありとおもはぬわれの大晦日
 いま此処を生きのいのちの大晦日 
 昼寝して起きてまた寝て大晦日
 かたづけぬままが気楽な大晦日
 こぞ今年失礼申す年賀状
 同病の友おもふなり大晦日
 ことなしびただ健やかに大晦日
 下仁田の葱をくださる大晦日
 妻の手でお節もそろふ大晦日
 巳迎への大晦日とや畏しき
 「壽(ことぶき)と玉」の掛字の大晦日
 末廣となづけし茶器に袱紗敷く
 日暦は表紙のままの大晦日
 蛤の汁がうれしき大晦日
 老いふたり年越し蕎麦は神妙に
 芝濱を談志が咄す大晦日
 明日までと待つまでもなし福笑ひ
 息子めはインフルエンザ大晦日
 新玉に早くよくなれ健やかに
 黒いマゴの甘えて来るも大晦日
 湯浴みしてただぼうやりと年を越す
 さてもさてではでは来ませ年の神
 来年もよろしくと妻に頼み入る
 晴れやかに来る年の妻の幸をねぐ
 年明けは百十四巻め湖の本

* なんぼでも口衝いて出る駄句の列
 
* 群馬の住吉一江さん、下仁田の葱を下さる。

  ☆ 秦 恒平先生
 長かったようでもあるし 短かかったようでもあるこの一年がいよいよ今日で終りです
 この年令になりますと 新年と言っても昨日の続きの一日と言う思いが強くなりました
 少しですが下仁田ねぎをお送りいたします 鍋でもつついて 早くお元気になられますよう お祈り致しております
 退職し自由気ままな生活で楽を覚えてしまいました
 好きな本を読んだり 写経をしたり 関東の道の駅巡りをして これからも前向きに毎日を送りたいと思います
 今後とも良き御指導の程 お願い申し上げます   住吉一江
    
* ありがとうございます。ご境涯 さこそと床しく存じます。 湖 

* 十時半。これで、今年の機械から離れる。ではでは。ご厚意を寄せてくださった大勢の方々に心より御礼申し上げます。
 良い新年をお達者に、お幸せにお迎え下さい。