招待席

やまむら ぼちょう 詩人 1884.1.10 - 1924.12.8 群馬県に生まれる。 まさに「複雑」を身に生い立ちし稀有の詩人であった。斬新なイマジズムから清新かつ枯淡へ詩風は転々し、下支え て文学への貪婪な欲求とキリスト教があった。大正四年(1915)『聖三稜玻璃』から遺作となった大正十三年(1924)『雲』へ晩年十年の詩作から一部 をあえて抄した。 (秦 恒平)





   赤い林檎

    山村 暮鳥



 


みきはしろがね

ちる葉のきん

かなしみの手をのべ

木を揺(ゆす)る

一本の天(そら)の手

にくしんの秋の手

 

 青空に
 

青空に

魚ら泳げり


わがためいきを

しみじみと

魚ら泳げり


魚の鰭

ひかりを放ち


ここかしこ

さだめなく

あまた泳げり


青空に

魚ら泳げり


その魚ら

心をもてり。

 

 野良道


こちらむけ

娘達

野良道はいいなあ

花かんざしもいいなあ

麦の穂がでそろつた

ひよいと

ふりむかれたら

まぶしいだらう

大(でつ)かい蕗つ葉をかぶつて

なんともいへずいいなあ

 

 


丘の上で

としよりと

こどもと

うつとりと雲を

ながめてゐる



 おなじく


おうい雲よ

いういうと

馬鹿にのんきさうぢやないか

どこまでゆくんだ

ずつと磐城平(いはきたひら)の方までゆくんか

 

 ある時


雲もまた自分のやうだ

自分のやうに

すつかり途方にくれてゐるのだ

あまりにあまりにひろすぎる

涯(はて)のない蒼空なので

おうい老子よ

こんなときだ

にこにことして

ひよつこりとでてきませんか

 

 病牀の詩


ああ、もつたいなし

もつたいなし

妻よ

びんばふだからこそ

こんないい月もみられる

 

 赤い林檎


林檎をしみじみみてゐると

だんだん自分も林檎になる