招待席

やぎ じゅうきち  詩人   1898.2.9 - 1927.10.26    東京南多摩郡に生まれる。 東京高等師範在学仲にキーツの詩に傾倒し、聖書をギリシヤ語で耽読し、無教会派の基督者として詩檀とはあまり関わることなく境 涯を深めつつ夭折。掲載作は、大正十四年(1925)同題の詩集より秦が抄出。 (秦 恒平)





    秋の瞳 抄
    八木 重吉



   

 私は、友が無くては、耐へられぬのです。しかし、私にはありません。
 この貧しい詩を、これを、読んでくださる方の胸へ捧げます。
 そして、私を、あなたの友にしてください。




   息を 殺せ

息を ころせ
いきを ころせ
あかんぼが 空を みる
ああ 空を みる


      心よ

ほのかにも いろづいてゆく こころ
われながら あいらしいこころよ
ながれ ゆくものよ
さあ それならば ゆくがいい
「役立たぬもの」にあくがれて はてしなく
まぼろしを 追ふて かぎりなく
こころときめいて かけりゆけよ


   赤ん坊が わらふ

赤んぼが わらふ
あかんぼが わらふ
わたしだつて わらふ
あかんぼが わらふ


   心 よ

こころよ
では いつておいで

しかし
また もどつておいでね

やつぱり
ここがいいのだに

こころよ
では 行つておいで


   

わたしは
玉に ならうかしら

わたしには
何にも 玉にすることはできまいゆえ


   静かな 焔

各(ひと)つの 木に
各(ひと)つの 焔

木 は
しづかな ほのほ


     

秋が くると いふのか
なにものとも しれぬけれど
すこしづつ  そして わづかにいろづいてゆく、
わたしのこころが
それよりも もつとひろいもののなかへ くづれてゆくのか


   

春は かるく たたずむ
さくらの みだれさく しづけさの あたりに
十四の少女の
ちさい おくれ毛の あたりに
秋よりは ひくい はなやかな そら
ああ けふにして 春のかなしさを あざやかにみる