招待席
おぐま ひでお 詩人 1901 -
1940 北海道に生まれる。少年時より人夫や職工をして北海道を流浪。昭和三年(1928)上京、六年(1931)プロレタリア詩人会に参加、口語を駆
使し旺盛に時代を撃ち続けた。掲載作は昭和十年(1935)『小熊秀雄詩集』耕進社刊に拠る。 (秦 恒平)
蹄鉄屋の歌
小熊 秀雄
泣くな、
驚ろくな、
わが馬よ。
私は蹄鉄屋。
私はお前の蹄(ひづめ)から
生々しい煙をたてる、
私の仕事は残酷だろうか。
若い馬よ、
少年よ、
私はお前の爪に
真赤にやけた鉄の靴をはかせよう。
そしてわたしは働き歌をうたいながら、
──辛棒しておくれ、
すぐその鉄は冷えて
お前の足のものになるだろう、
お前の爪の鎧になるだろう、
お前はもうどんな茨の上でも
石ころ路でも
どんどんと駈け廻れるだろうと──、
私はお前を慰めながら
トッテンカンと蹄鉄うち。
ああ、わが馬よ、
友達よ、
私の歌をよっく耳傾けてきいてくれ。
私の歌はぞんざいだろう、
私の歌は甘くないだろう、
お前の苦痛に答えるために、
私の歌は
苦しみの歌だ。
焼けた蹄鉄を
お前の生きた爪に
当てがった瞬間の煙のようにも、
私の歌は
灰色に立ちあがる歌だ。
強くなってくれよ、
私の友よ、
青年よ、
私の赤い焔(ほのお)を
君の四つ足は受取れ、
そして君は、けわしい岩山を
その強い足をもって砕いてのぼれ、
トッテンカンの蹄鉄うち、
うたれるもの、うつもの、
お前と私とは兄弟だ、
共に同じ現実の苦しみにある。