招待席
 
内藤鳴雪 ないとう・めいせつ 
俳人 弘化三年1847 -大正十五年1926  伊予(愛媛縣)に生まれる。正岡子規門の客分格、子規と同郷の友で、俳句の革新に同行した。 掲載作は、明治四十年十一月二十八日博文館刊『鳴雪俳話』 より抄出、還暦ごろの選句である。「俳話」の証として選ばれているので、名句の厳選というよりいろいろの俳味を説いていて、選句じたいが親しみやすく面白 い羽織 袴姿で選んでいない。ここでは「俳話」抜きで読んでもらうので、なかには謎解きのような句もた くさんあり、思案を楽しんでもらいたい。この翁は、句が出来たら、なるべく市井のふつうの人に見せて、おもしろい、分かる分かると言われたなら破り捨てよ と。首をひねられたなら初めて師友のまえに出して好いと。月みを嫌った子規派の人らしい。   あわせて「文学エッセイ」室に、同書より『正岡子規の人物』をぜひ招待しておきたい。 (秦 恒平)




        鳴雪翁選句   

    内藤鳴雪




* 芭蕉の句と蕪村の句

蓬莱に聞かばや伊勢の初便り  芭蕉
    はうらいに きかばやいせの はつたより

蓬莱の山祭りせむ老の春  蕪村
  はうらいの やままつりせむ おいのはる

春風に吹き出し笑ふ花もがな  芭蕉
  はるかぜに ふきだしわらふ はなもがな

春風のつま返したり春曙抄  蕪村
  はるかぜの つまかへしたり しゆんしよせう

春雨や蜂の巣つたふ屋根のもり  芭蕉
  はるさめや はちのすつたふ やねのもり

春雨の中を流るゝ大河かな  蕪村
  はるさめの なかをながるる たいがかな

春の夜や籠人ゆかし堂の隅  芭蕉
  はるのよや こもりどゆかし だうのすみ

春の夜に貴とき御所を守る身かな  蕪村
  はるのよに たうときごしよを もるみかな


* 新年の句

元日や神代のことも思はるゝ  守武
  がんじつや かみよのことも おもはるる

元日や何にたとへん朝ぼらけ  忠知
  がんじつや なににたとへん あさぼらけ

ぬれ色や大土器の初日かげ  任口
  ぬれいろや おほかはらけの はつひかげ

天の戸に朝寝はあらじ初日かげ  乙由
  あまのとに あさねはあらじ はつひかげ

松かざり伊勢が家買ふ人は誰  其角
  まつかざり いせがいへかふ ひとはたれ

喰積や木曽のにほひのひのきもの  岱水
  くひつみや きそのにほひの ひのきもの

萬歳や左右に開きて松の影  去来
  まんざいや さうにひらきて まつのかげ

若水や手に美しき薄ごほり  武作
  わかみづや てにうつくしき うすごほり

ぬれ縁や薺こぼるゝ土ながら  嵐雪
  ぬれえんや なづなこぼるる つちながら

年玉に梅折る小野のおきな哉  言水
  としだまに うめをるをのの おきなかな


* 梅の句

梅が香にのつと日の出る山路かな  芭蕉
  うめがかに のつとひのでる やまぢかな

なつかしき枝のさけ目や梅の花  其角
  なつかしき えだのさけめや うめのはな

梅一輪一輪づゝの暖かさ  嵐雪
  うめいちりん いちりんづつの あたたかさ

痩せはてゝ香に咲く梅の匂ひかな  去来
  やせはてて かにさくうめの にほひかな

灰すてゝ白梅うるむ垣根かな  凡兆
  はいすてて しろうめうるむ かきねかな

横に咲き竪につぼむや梅の花  尚白
  よこにさき たてにうるむや うめのはな

散る時をさわがぬ梅の一重かな  桃隣
  ちるときを さわがぬうめの ひとへかな

枯れたにと思うたにさて梅の花  従古
  かれたにと おもうたにさて うめのはな

目に立つて正月早し梅の花  猿雖
  めにたつて しやうがつはやし うめのはな

梅折つてあたり見まはす野中かな  一髪
  うめをつて あたりみまはす のなかかな


* 時鳥の句

ほとゝぎす鳴くや雲雀と十文字  去来
  ほととぎす なくやひばりと じふもんじ

鶯の棄て児ならなけほとゝぎす  守武
  うぐひすの すてごならなけ ほとゝぎす

ほとゝぎす雨のかしらを鳴いて来る  浪化
  ほととぎす あめのかしらを ないてくる

ほとゝぎす顔の出されぬ格子かな  野坡
 ほととぎす かほのだされぬ かうしかな

ほとゝぎす背中見てやる麓かな  曲翠
  ほととぎす せなかみてやる ふもとかな

ほとゝぎす一夜ひとよの月の欠け  乙由
  ほととぎす ひとよひとよの つきのかけ

どの神に通夜して聞かんほとゝぎす  柳居
  どのかみに つやしてきかん ほととぎす

ほとゝぎす母の文にも待つとあり  巴紅
    ほととぎす ははのふみにも まつとあり

蚊にくはれ蠅にせせられほとゝぎす  嵐流
  かにくはれ はいにせせられ ほととぎす

ほとゝぎす雲踏みはづし踏みはづし  露川
   ほととぎす くもふみはづし ふみはづし


* 五月雨の句

湖の水まさりけり五月ふめ  去来
   みづうみの みづまさりけり さつきあめ

このころは小粒になゆりぬ皐月雨  尚白
  このごろは  こつぶになりぬ さつきあめ

聞きなれて降らぬに似たり五月雨  岐答
   ききなれて ふらぬににたり さつきあめ

五月雨は傘に音なきを雨間かな  亀洞
     さみだれは かさにおとなきを あままかな

五月雨やせめて明るき傘の下  超波
  さみだれや せめてあかるき かさのした

ひね麦の味なき空や五月雨  木節
  ひねむぎの あぢなきそらや さつきあめ

小原女を待つ恋にして五月雨  鳥酔
    をはらめを まつこひにして さつきあめ

五月雨や鮓のおもしをなめくじり  鬼貫
  さみだれや すしのおもしを なめくじり

五月雨や傘につけたる小人形  其角
  さみだれや かさにつけたる こにんぎやう

五月雨や梢に鳶のかこち顔  柳居
  さみだれや こづゑにとびの かこちがほ


* 暑さと涼しさ

飛ぶ鳥も見えぬ暑さや日の臭ひ  母紏
  とぶとりも みえぬあつさや ひのにほひ

二本目の扇をおろす暑さかな  嵐蘭
  にほんめの あふぎをおろす あつさかな

桐の葉に埃りのたまる暑さ哉  孤屋
  きりのはに ほこりのたまる あつさかな

負うた子に髪嬲らるゝ暑さ哉  園女
  おうたこに かみなぶらるる あつさかな

婿入りの噂聞くさへ暑さ哉  珪琳
  むこいりの うわさきくさへ あつさかな

涼しさに四つ橋を四つ渡りけり  來山
  すずしさに よつはしをよつ わたりけり

涼しさや塀にまたがる竹の枝  卯七
  すずしさや へいにまたがる たけのえだ

涼しさや縁より足をぶらさげる  支考
  すずしさや えんよりあしを ぷらさげる

涼しさは筍鮓の匂ひかな  傖促
  すずしさは たけのこずしの にほひかな

涼しさやこの庵をさへ住捨てし  曽良
  すずしさや このあんをさへ すみすてし

夕涼みむしろ一枚提げて来る  萬倫
  ゆうすずみ むしろいちまい さげてくる

中間の堀をみてゐる涼み哉  木導
  ちうげんの ほりをみてゐる すずみかな


* 夏の季のさまざま

巡礼の棒ばかり行く夏野かな  重頼
  じゆんれいの ぼうばかりゆく のなかかな

秣負ふ人を栞のなつのかな  芭蕉
  まぐさおふ ひとをしをりの なつのかな

鶯の声はそのまゝ夏の山  恕風
  うぐひすの こゑはそのまま なつのやま

夏山や木蔭こかげの江湖部屋  燕童
  なつやまや こかげこかげの がうこべや

おもしろう鼠の食ひし扇かな  良品
  おもしろう ねづみのくひし あふぎかな

魚あぶる幸ひもあれ渋団扇  馬蒐
   うをあぶる さいはひもあれ しぶうちは

旭さす紙張のうちや蚊のまよひ  一草
  あさひさす しちやうのうちや かのまよひ

帷子や帯もさせずに風が吹く  杜若
  かたびらや おびもさせずに かぜがふく

虫干や世にある人のあつくろし  百明
  むしぼしや よにあるひとの あつくろし

さらし井ややゝ静まりて水の音  百明
  さらしゐや ややしづまりて みづのおと


* 秋の滑稽の句

秋風や壁のヘマムシヨ入道め  一茶
      あきかぜや かべのヘマムシヨ にふだうめ

底のない桶こけありく野分哉  蕪村
  そこのない をけこけありく のわきかな

月見とて行けば銭とる小橋哉  士朗
  つきみとて ゆけばぜにとる こはしかな

後の月芋が垣根はあれにけり  也有
  のちのつき いもがかきねは あれにけり

初秋や団扇で風を引いた人  太祇 
  はつあきや うちわでかぜを ひいたひと

長き夜を月取る猿の思案哉  子規
  ながきよを つきとるさるの しあんかな

蓮の実の蜂にもならず飛にけり  路通
   はすのみの はちにもならず とびにけり

ちぎりきな互みに渋き柿二つ  大江丸
  ちぎりきな かたみにしぶき かきふたつ

据風呂の下や案山子の身の終り  丈草
  すゑふろの したやかがしの みのおはり

投げられて坊主なりけり辻角力  其角
  なげられて ばうずなりけり つじすまふ


* 名月の句

名月や畳の上に松の影  其角
  めいげつや たたみのうへに まつのかげ

名月や煙り這ひ行く水の上  嵐雪
  めいげつや けむりはひゆく みづのうへ

二つあらば争論やせん今日の月  智月
  ふたつあらば あらそひやせん けふのつき

名月や今宵生るゝ子もあらん  信徳
  めいげつや こよひうまるる こもあらん

名月やおよそ天下の芋団子  百明
  めいげつや およそてんかの いもだんご

名月や風さへ見えて花すゝき  希因
  めいげつや かぜさへみえて はなすすき

名月や宵は女の声ばかり  木節
  めいげつや よひはをんなの こゑばかり

明月や池をめぐりて夜もすがら  芭蕉
  めいげつや いけをめぐりて よもすがら

三井寺の門叩かばや今日の月  芭蕉
  みゐでらの もんたたかばや けふのつき

明月や富士見ゆるかと駿河町  鳥酔
  めいげつや ふじみゆるかと するがちやう


* 小春の句

てかてかと日のそこ寒き小春哉  桃妖
  てかてかと ひのそこさむき こはるかな

ひる中の一時ばかり小春哉  理然
  ひるなかの ひとときばかり こはるかな

鳥さしの顔に小春の日さし哉  壺仙
  とりさしの かほにこはるの ひさしかな

辻占の髯抜く橋の小春かな  素堂
  つじうらの ひげぬくはしの こはるかな

朝寝して出れば小春の天気哉  李由
  あさねして でればこはるの  てんきかな

柴舟のぬれてけぶれる小春哉  右常
    しばふねの ぬれてけぶれる こはるかな

日の色に嚔こらゆる小春哉  旦水
  ひのいろに くさみこらゆる こはるかな

鴨の首よけて身をかく小春哉  幽泉
  かものくび よけてみをかく こはるかな

眠るうち小春の日南面白き  孚石
  ねむるうち こはるのひなた をもしろき

飴売りよ小春の蠅の飴につく  百明
  あめうりよ こはるのはいの あめにつく


* 汚ない句

初雪にこの小便は何奴ぞ  其角
  はつゆきに このせうべんは なにやつぞ

かにぐそにうつらふ花の妹かな  其角
  かにぐそに うつらふはなの いもとかな

小便も筧にあまる皐月哉  其角
  せうべんも かけひにあまる さつきかな

行く年に唾き吐くらん鏡磨ぎ  其角
  ゆくとしに つばきはくらん かがみとぎ

秋の暮れ祖父のふぐりを見てのみぞ  其角
  あきのくれ ぢぢのふぐりを みてのみぞ

暁のへどは隣りかほとゝぎす  其角
  あかつきの へどはとなりか ほととぎす

竹の屁を折ふし聞くや五月雨  其角
  たけのへを をりふしきくや さつきあめ

しぐるゝやありし厠の一つ松  其角
   しぐるるや ありしかはやの ひとつまつ

泥棒や花の陰にてふまれけり  其角
  どろぼうや はなのかげにて ふまれけり

泥棒のかげさへ水の蓮哉  其角
  どろぼうの かげさへみづの はちすかな


* 月並の句 (作者の名は、必要がないからわざと上げぬ。)

初夢や夢の世ながらこのもしき
  はつゆめや ゆめのよながら このもしき

草の戸も行儀に並ぶ雑煮かな  
  くさのとも ぎやうぎにならぶ ざうにかな

よきほどにまづ稲つむや寶船
  よきほどに まづいねつむや たからぶね

雪までも載する初荷の車かな
  ゆきまでも のするはつにの くるまかな

廻さるゝ猿また人を廻しけり
   まはさるる さるまたひとを まはしけり

鳥追の笠ぬがせたく思ひけり
  とりおひの かさぬがせたく おもひけり

笑ふ時開く禮者の扇哉
  わらふとき ひらくれいしやの あふぎかな

初夢のはなし暫くをしみけり
  はつゆめの はなししばらく をしみけり

一日の景色よ誰れも晴れ小袖
  いちじつの けしきよたれも はれこそで

雪消えて今年になりぬ富士の山
  ゆききえて ことしになりぬ ふじのやま

山里も一日めくや人出入り
  やまざとも いちじつめくや ひとでいり


* 女子と俳句

鼻紙の間にしぼむ菫かな  園女
  はながみの あひだにしぼむ すみれかな

筆のさや焼いてまつ夜の蚊遣哉  芳樹尼
  ふでのさや やいてまつよの かやりかな

男なら一夜寝て見ん春の山  とよ女
  をとこなら ひとよねてみん はるのやま

我子なら供にはやらじ夜の雪  とめ女
  わがこなら ともにはやらじ よるのゆき

粟の穂や身は数ならぬ女郎花  捨女
  あはのほや みはかずならぬ おみなへし

落鮎や日に日に水のおそろしき  千代女
  おちあゆや ひにひにみづの おそろしき

井戸端の櫻あぶなし酒の酔  秋色
  ゐどばたの さくらあぶなし さけのゑひ

雪の朝二の字二の字の下駄の跡  捨女
  ゆきのあさ にのじにのじの げたのあと

渋かろか知らねど柿の初ちぎり  千代女
  しぶかろか しらねどかきの はつちたぎり

蜻蛉釣り今日はどこまで行つたやら  千代女
  とんぼつり けふはどこまで いつたやら

笄も櫛もむかしや散り椿  羽紅
   こうがいも くしもむかしや ちりつばき

あるとなきと二本さしけり芥子の花  智月尼
  あるとなきと にほんさしけり けしのはな

負ふた子に髪嬲らるゝ暑さかな  園女
  おふたこに かみなぶらるる あつさかな


* 山崎宗鑑の句

弁慶も立つやかすみのころも川
  べんけいも たつやかすみの ころもがは

にがにがしいつまで嵐ふきの薹
  にがにがし いつまであらし ふきのたう

折る人の脛に噛みつけ犬ざくら 
  をるひとの はぎにかみつけ いぬざくら

筍のふときも親のめぐみ哉
  たけのこの ふときもおやの めぐみかな

仏壇にほぞんかけたかほとゝぎす
  ぶつだんに ほぞんかけたか ほととぎす

擂木に知らすな蓼の花ざかり
  すりこぎに しらすなたでの はなざかり

姫松の下葉やつゆのそめふぐり
  ひめまつの したはやつゆの そめふぐり

かさをきば雨にもいでよ夜半の月
  かさをきば あめにもいでよ よはのつき

寒くとも日にな当りそ雪ぼとけ
  さむくとも ひになあたりそ ゆきぼとけ

風寒し破れ障子の神無月
  かぜさむし やぶれしやうじの かんなづき


* 西山宗因の句

これはこれはとばかり花の吉野山  貞室
  これはこれは とばかりはなの よしのやま

書き初めや行年七十攝州の住  宗因
      かきそめや ぎやうねんしちじふ せつしうのぢう

浪華津にさくやの雨や梅の花
  なにはづに さくやのあめや うめのはな

はつ花や急ぎ候ほどにこれははや
  はつはなや いそぎさふらふほどに これははや

世の中や蝶々とまれかくもあれ
  よのなかや てふてふとまれ かくもあれ

松に藤蛸木にのぼる景色あり
  まつにふじ たこきにのぼる けしきあり

ほとゝぎすいかに鬼神も確かに聞け
  ほととぎす いかにきじんも たしかにきけ

山の内や両上杉の下涼み
  やまのうちや りやううへすぎの したすずみ

清水門や民のとゞまるところてん
  しみづもんや たみのとゞまる ところてん

寄れ組まむ両馬が間に礒清水
  よれくまむ りやうばがあひに いそしみづ

竹の子の一寸延ぶれば千尋哉
  たけのこの いつすんのぶれば ちひろかな

たちやすしこんなことなら百年も
  たちやすし こんなことなら ひやくねんも

ながむとて花にもいたし首の骨
  ながむとて はなにもいたし くびのほね

もし啼かば蝶々籠の苦を受けん
  もしなかば てふてふかごの くをうけん

鶯やまんまるに出る声の色
  うぐひすや まんまるにでる こゑのいろ

菜の花や一本咲きし松のもと
  なのはなや いつぽんさきし まつのもと

薬罐屋も心して聞けほとゝぎす
  やかんやも こころしてきけ ほととぎす

蛍火も百がものあり滑河
  ほたるびも ひやくがものあり なめりがは

吹く風に居尻定めぬほたる哉
  ふくかぜに ゐじりさだめぬ ほたるかな

人なみの輪をも越えけり禊川
  ひとなみの わをもこえけり みそぎがは

江戸店やとざさぬ御代の下涼み
  えどみせや とざさぬみよの したすずみ


* 虚栗調の句

凩よ世に拾はれぬみなし栗  其角
  こがらしよ よにひろはれぬ みなしぐり

春を何と木枯のごまめ時雨のえび  嵐蘭
  はるをなんと こがらしのごまめ しぐれのえび

玉うどのうつくしちさの早苗の薄緑り  杉風
  たまうどのうつくし ちさのさなへのうすみどり

鶯を魂にねむるか嬌柳  芭蕉
  うぐひすを たまにねむるか こびやなぎ

柳には吹かでおのれ嵐の夕燕  嵐雪
  やなぎにはふかで おのれあらしのゆうつばめ

なれも恋猫に伽羅焚いて浮かれけり  嵐雪
  なれもこひ ねこにきやらたいて うかれけり

わが句人知らずわれを啼くものはほとゝぎす  其角
  わがくひとしらず われをなくものは ほととぎす

蟇を踏んで夜卯の花を憎みけり  其角
  ひきをふんで よるうのはなを にくみけり

さみだれの端居ふるき平家をうなりけり  嵐雪
  さみだれのはしゐ ふるきへいけを うなりけり

酒の瀑布冷麦の九天より落つるならむ  其角
  さけのたき ひやむぎのきうてんより おつるならむ

雪の河豚左勝水無月の鯉  芭蕉
  ゆきのふぐ ひだりかち みなづきのこひ

うき葉まき葉この蓮風情過ぎたらむ  素堂
  うきはまきは このはすふぜい すぎたらむ

三日月や朝顔の夕つぼむらむ  芭蕉
  みかづきや あさがほのゆふべ つぼむらむ

僕が雪夜犬が枕のはし寝哉  杉風
  ぼくがせつや いぬをまくらの はしねかな

花に浮世わが酒白く飯黒し  芭蕉
  はなにうきよ わがさけしろく めしくろし