「e-文藝館=湖(umi)」詞華集

祝『仙翁 花』上梓  
 松本幸四郎様  御句集頂戴 
 
    好きな句をくちずさみゐる慈雨の季  秦 恒平
       五月雨といふ句もありて幸四郎                                   掲載作は、平成二十一年六月三日 三月書房刊     (秦 恒平抄録)




     仙翁花   抄   

   九代目  松本幸四郎


  *
 
キホーテと五十路の旅の青しぐれ
 
まどろみて五月雨の曲聴いてをり
 
木枯らしの中に楽日の役者かな
 
冬ざれに筋隈の紅燃ゆるかな
 
おぼろ夜の鬼女の棲み家を訪ねけり
 
五月雨に露けき袖や幸四郎
 
神祀るやしろ涼しきところかな
 
老人のまどろむでゐる夏列車
 
機関車の大暑の谷に入りにけり
 
日盛りの裸足で帰る農夫かな
 
夕闇のなかに横たふ刈田かな
 
冬凪ぎの静けきなかの土佐にをり
 
幾千の木漏日いだき山眠る
 
冬の山大神のごとおはすなり
 
ぼたん雪降るをながめてゐたりけり
 
神々が双肌をぬぐ夏野球
 
今年またせみ鳴き初めて思ふこと
 
豊の秋うつして清し御膳水
 
寒椿散るが如くに又播磨
 
籐椅子に妻まどろむでゐたりけり
 
冬日和母の佳き日は暖かき
 
四代目の金太郎なり風薫る