招待席
はぎわら きょうじろう 詩人 1899.5.23 -
1938.11.22 群馬県勢多郡に生まれる。萩原朔太郎に識られて詩作に向かい、意外性に富んだ詩形と感情で、社会性に富んだシュールな詩風で、時代
に衝撃を加えた。掲載作は、大正十四年十月刊の詩集『死刑宣告』より掲出。 (秦 恒平)
愛は終了され
萩原 恭次郎
母の胸には 無数の血さへにじむ爪の跡!
あるひは赤き打撲の傷の跡!
投石された傷の跡! 歯に噛まれたる傷の跡!
あゝそれら痛々しい赤き傷は
みな愛児達の生存のための傷である!
忘れられぬ乳房はもはや吸ふべきものでない
転居の後の如く荒れすたれ
あゝ 愛はすでに終了されたのだ!
さるを今 ふたゝび母の胸を蹴る!
新らしき世紀の恋人のため!
新らしき世界に青年たるため
あゝ われ等は古き父の遺跡を
見事に破壊するを主義とする!