「e-文藝館=湖 (umi)」 詞華集

でぐち こじょう  
1924.1.21 山口県に生まれる
。下関市在住の俳人。田村木国、上村占魚に師事し、占魚没後は独行の間に飄逸の境涯を深めつつ、宇佐、国東等の風土 記探索にも余念ないと聞く。湖の 本の読者。日本ペンクラブ会員




    即今吟句

     出口孤城
 


初夢や掛り稽古を乞ふの礼
 
曳く船と曳かるる船の初景色
 
恵方なる波乗りや鵜は巌にゐる
 
独り住む注連(しめ)と呟き火に落す
 
春立つや芝居奈落は塵もなし
 
卒業歌霧より波の立ち寄する
 
雛段と座を琅玕の仕切竹
 
肩ふれし下げ雛と目のあひにけり
 
俯きて咲く水仙を涅槃図に
 
船造る火花に夕日茂吉の忌
 
帰る鷹指さすに潮鳴りのなか
 
海猫渡る漂流缶が岩に乗り
 
ひとつ撞く鐘のうすれの百千鳥
 
拳法少年盛りの梅の香を突けり
 
梅白しクルスは黒き石でもて
 
霧の夏至天守へ脱ぎし靴一足
 
乗船禁止その名も消されさみだるる
 
夜釣灯の濃きを夫の舟と指す
 
風入れの木偶の衣裳にひる灯影
 
田植歌うたひをはれば植ゑ了る
 
神輿舁く肩に青潮激つなり
 
山車衆や霧に燈をふり舟で来る
 
囃子方扇ぐ役目で山車に乗る
 
時計はづしし巫女の摺り鉦夏神楽
 
串しなひ湯気の田楽ほととぎす
 
巣に立ちて羅漢寺見上ぐ燕の子
 
耶馬の瀬に飛ばんとゆるぶ竹の皮
 
富貴寺ある大字蕗の秋白し
 
藻汐焚く火いろに釣瓶落しかな
 
妻に杖あづけ塗香の秋深き
 
渋の香の干網垂るる稲びかり
 
早鞆を去りゆく流燈板いちまひ
 
籾を摺る四五人ほどの家の数
 
鳥わたる耶蘇の揺り鐘かんがりと
 
曼珠沙華山鳩の鳴くのみに燃ゆ
 
しらじらの壁画の裏は銀杏ちる
 
銀杏ちる石の奪衣婆血の気なし
 
ナースを果たし国東深く柿を剥く
 
木守を仰ぎて此処で別れしが
 
むらさきがしぐれて紅く硯石
 
雪のふる港へ寄らぬ船の波
 
犬は尾を巻きしめて冬濤を見る
 
円座餅つく場さきに雉の来て
 
絵巻めく几帳ぬちなる牡丹鍋
 
狩はまだ無理と繋がれ吠ゆる犬
 
年木割る音を返して磨崖仏
 
城濠の涸れて日が充ち笹子鳴く
 
枯芭蕉風の走れば日を返へす
 
枯芦に嘴を入れて鷺そぞろ
 
寒牡丹去るに日矢さす志賀島

                      以上