招待席

よさの てっかん  詩人 1873.2.26 - 1935.3.26 京都府に生まれる。 詩歌集「烏と雨」大正四年(1915)刊に収録の掲載作は、明治四十四年(1911)の大逆事件に絞首刑された 大石誠之助を素材の痛切な諷刺詩で作、妻与謝野晶子に「君死にたまふことなかれ」の有ったのを想起させる。大逆事件は、ゆるされてならない大きな国の犯罪 を暗部に、日本の近代・現代を大きく自壊と崩落へ導いた。「e-文藝館=湖(umi)」に掲載している石川啄木の『時代閉塞の現状』平出修の小説『逆徒』 徳富蘆花の講演『謀叛論」などは、同時期における優れて勇気ある聡明な言説・証言となった。鉄幹のこの屈折を装った批評の詩も「日本」を嘆く不気味な発語 であった。 (秦 恒平) 



   誠之助の死   与謝野 鐵幹


大石誠之助は死にました、

いい気味な、

機械に挟まれて死にました。

人の名前に誠之助は沢山ある、

然し、然し、

わたしの友達の誠之助は唯一人。

わたしはもうその誠之助に逢はれない、

なんの、構ふもんか、

機械に挟まれて死ぬやうな、

馬鹿な、大馬鹿な、わたしの一人の友達の誠之助。

 

それでも誠之助は死にました、

おお、死にました。

 

日本人で無かつた誠之助、

立派な気ちがひの誠之助、

有ることか、無いことか、

神様を最初に無視した誠之助、

大逆無道の誠之助。

 

ほんにまあ、皆さん、いい気味な、

その誠之助は死にました。

 

誠之助と誠之助の一味が死んだので、

忠良な日本人は之から気楽に寝られます。

おめでたう。